BOOK_NEBEL

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09・淀む光と闇の奥





まだまだ太陽が昇ってくる気配のない真夜中。

校舎を出たところで獣の悪霊を引き連れたハチくんと孫兵くんに襲われた私は、そこで長次さんが捜していた小平太さんに助けられた。

小平太さん、その後に再会した孫兵くんが無事に成仏し、あとはハチくんだけだ。

喉に刀を刺されて死んでもなお、獣たちのことを心配していたハチくんを助けてあげたい。

そのために、私は一度ハチくんと会ったとところへ戻ろうとしていた。


薄気味悪い暗闇の中、ハチくんと会った場所を思い出しながら歩いていると、体にゾクリと寒気が走った。


「!」


ぴたりと足を止めると、これは悪霊の霧の気配だと何となく悟った。

また別の悪霊がやってきたのか、と思うとヒヤリとした。

振り返れば、後ろからスウッと湧いた霧が近付いてくる。

そしてその霧の中に、獣を沢山引き連れたハチくんの姿があった。


「あ…!」


ヒューッ、ヒューッ、と音がする。

一瞬彼に駆け寄ろうとして、慌てて足を止めた。


「は、ハチ…くん?」


先程会った時は、泣きながら私に縋り、“獣たちを助けてやってほしい”と言っていたはずだ。

けれど、今目の間にいて、私に迫ってくるハチくんは、その両目をギラつかせ、歩くこともないまま、スウッとこちらに寄ってきているのだ。

さっきはあんなに悪霊らしくなかった優しい悪霊が、今や百の妖怪を引き攣れた百鬼夜行の主のような出で立ち。

目つきには力が無くとも、その眼球だけは殺気に満ちて光っている。

さっき私に会って、助けを求めたことも忘れているようだった。


地面の上を滑るように動いていたハチくんの体が止まり、獣たちも立ち止まった。

彼は私の方を獣よりも獰猛な目で睨みつけていたかと思うと、その手を自分の口元にやり、喉に深々と突き刺さった刀の柄を掴んだ。


「ひ…っ」


まさか、と思えばそのまさかだ。

ハチくんは怒りや憎しみを込めて光らせていた目をスッと細めると、その喉から山賊や海賊が好んで使うくらいの長さの刀をズルリと引き抜いたのだった。

彼の口や喉から血が溢れ、地面にボタボタと落ちると、またそこからも霧が立ち上った。


「う…っ」


あまりにもグロテスクな光景に気持ち悪くなってしまう。

ガチャ、と小さな金属の音を立てて、ハチくんが私に刀を向けた。

彼の喉からヒューッと空気の抜ける音が鳴った。


「痛ェんだよ……なあ、誰のせいだ?」


彼が喋るたびに、喉からパタパタと血が落ちた。


「この痛み……こいつらの痛み……」


ハチくんの目が、完全に獲物を捉えて照準を合わせきったように細められる。

すると、彼の足元の獣たちも同じように目を細めながら唸った。


「万倍にして返してやる……」


その声と共に彼から更に強い霧がぶわりと放たれ、獣たちが駆け出した。

そしてそれと同時に、私も踵を返して走り出していた。

平坦な道を走っているだけではすぐに追いつかれるだろうと踏み、何処か隠れられる場所を探す。


(待ってて、ハチくん……獣や蟲と一緒に成仏できるように、ちゃんと方法を探すから…!)


今はとにかく逃げなければならない。

ハチくんが発する、誰のものよりも一際濃い霧が私にそう告げていた。















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