OTHERSHORT

□Blau und Grün
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放課後。

帰宅部である俺は自由を求めてさっさと校門を出てしまう。

そしてこれからどうしようと考えて、大抵は本屋に行こうと決めるのだ。

今日もそうだ。

なんか本屋に行きたい気分。

そんで買出しを終えて、家に帰る。

いつもと同じようなスケジュールを立てて、バスに乗り込む。

今度はどんな本を買おうか。

推理小説、それとも哲学とか?

…今日は立ち読みだけにしておこうか?

うん、そうだな、それがいい。

親戚の家から毎月送られてくる生活費も浴びるほどあるわけじゃないんだ。

ああ、世の中とっても世知辛い。







(…結局買っちゃったなあ…)


財布の紐は固いつもりだったのだが。


(衝動買いとか…らしくないや…)


クロスワードとかのゲームが載ってる雑誌。

たまにはそういう頭の体操も大事かな、とか。


ありがとうございました、という女店員の声と共に静かに閉まる自動ドア。


…雨が降りそうだ。

雑誌入りの紙袋を小脇に抱えて鞄を漁ると、よくサラリーマンが使っていそうな感じの黒い折り畳み傘が見つかる。

ぽつりぽつりと降り出す小さな滴。

じきに勢いも増していくのだろう。

道行く人々が降り出した雨に焦りだし、あちらこちらで傘が開く音も聞こえる。

それが止むと、雨の音が強くなってくる。

走り出す人々。

リュウは折り畳み傘を開きにかかる。

…が。


――バサッ!!


「な…っ!?」


バシャバシャという水溜りを踏む足音が聞こえたかと思うと、それは凄い速さで近付いてきて、俺の鞄を奪い取った。


(ひったくり…!?)


見ると、群青の合羽を着た、恐らくは男の後姿がしっかりと俺の通学鞄を掴んで走っている。

よりにもよって何故俺、こんなただの学生を標的にするなんてなど色々考えても仕方ない。

あの鞄には通帳も生徒手帳も家の鍵も財布も入ってる。

盗られては困る物ばかりだ。


「………っ」


俺は取りあえず、折り畳み傘と雑誌を手に走った。

走る速さに自信は無いが、鞄の中の貴重品の為なら少しぐらい車に撥ねられたって走る。


「まっ、待てっお前…!」


ひったくりの後姿を必死に追う。

この後スーパーに行って夕食のおかずだって買わなきゃいけないのに。


「待てったら…!!」


それでも男との距離は一向に縮まない。

ああもう身体がもたない。

どっちが先にへばるかな。

…俺かな。

それでも負けるわけにはいかないんだけど。

こっちも生活かかってるんで。


「お前、待てってばッ!!」


流石にちょっとキレてきて、右手の折り畳み傘を振り上げたその時だった。


――バシ…ッッ!!


凄い音がした。

まるで誰かが人を殴ったみたいな。


「…な…っ?;」


見ると、案の定ひったくりが倒れていた。

俺は速さを緩めて呼吸を整えながらそこに行く。


「…ああ何、お前が被害者?」


声がした。

雨で見えなかったが、角の所に誰かが立っていた。


「こいつひったくりだろ。前も俺の知り合いが被害に遭ってさあ…学生鞄なんか持って不自然だったし、こいつもそうかなあ…って思って蹴ったんだけど。…そうだろ?」

「は、はい…」


その男は俺と同じぐらいの年頃の青年だった。

制服からして、近くの優秀な高校の生徒だ。

綺麗な金髪。

青年はにっこり、けれどちょっと皮肉に笑った。


「そ、良かった…ハイ、お前の鞄」

「…ありがとうございます」


大の大人を一発で昏倒させるなんて、この人どういう人なんだろう。

――ちょっと恐い。






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