OTHERSHORT

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■黒子たちがロボットです。

■ほのぼの、シリアス、切、ギャグ。

■バスケをしません。

■家族愛>異性愛。

■夢主
4歳。素直で純粋。
コンプレックスは顔の火傷の痕。

■カランコエ
花言葉「君を守る」etc















起動された瞬間、黒子は何となく「ああ、騒がしいな」と感じていた。

耳の擬似鼓膜が、生活音と人の声を拾う。

ガラスの瞳をゆっくりと開くと、真剣な表情でこちらの顔を覗き込む、二人の男女の顔がそこにあった。


「ほら、良かった!起動したわ!」

「はあ……こうして見ると、本当に生きた人間みたいだなぁ」


興奮気味に拳を握りしめる女性と、その隣で、感心したように顎を擦りながら感嘆する男性。

その二人のことを、黒子は知っていた。


「……このたび、僕をお買い上げくださった旦那様と、その奥様で間違いありませんか」

「おお、喋った!」

「ちゃんと私達のことが分かるみたいね、すごい!」

「顧客情報はあらかじめインプットされてるらしいからなぁ……」


喉の部分に埋め込まれた人工声帯から言葉を発した黒子に、まともな返事もせずに感動している二人。

けれど二人の会話から察するに、今の質問に間違いはなかったらしい。

回路が導き出した答えに一人で納得しながら、黒子は少しだけ周囲の状況を観察した。

壁と天井に囲まれた、一定の広さを持つ空間の中。

ガラスの眼球に映る物体について、内臓された脳で検索をかけてみると、“テーブル”、“植物”、“コップ”、“窓”、“椅子”、“ソファ”、“テレビ”、……といったように、膨大な検索結果が1秒以内で次々ヒットした。

検索結果を総合して考えてみるに、ここはこの二人が生活する住居のリビングにあたるらしい。

そんな中、黒子たちから少し離れたところに置かれたソファに座っている人間に目が行った。

さっき黒子が起動したときから、ずっと声を上げて泣いている。

おかげで、さっきから黒子の音声認識処理が少しばかり忙しい。

高性能ロボットである黒子にとって、処理すべき情報が多すぎて動作が重くなるとか、回路が熱を持ちすぎてオーバーヒートを起こすとか、フリーズするとか、クラッシュするとか、そんなことはまず起こらない。

少しぐらい人間が泣いていたところで、その轟々とした泣き声だって、黒子のCPUはあっさり認識してしまうのだ。

けれど、ソファに座っている人間の泣き声は、一般的には「うるさい」と言ってしまっていいぐらいの音量だった。

ソファの上で泣く人間をガラスの眼球で見つめ、“人間”、“子ども”、“小さい”、“女の子”といった情報を引き出す黒子に、そばに立った女性が言う。


「ウチの娘よ。一人娘なの。貴方を買ったのは、あの子の面倒を見てほしかったから」

「彼女のお世話……それが、僕の役目なんですね」


小さく頷きながらゆっくり一歩を踏み出した黒子に、男性が言う。


「この前、怪我をしたんだ。俺も妻も、いつもは仕事で家を空けている。親戚なんかを呼んで娘の世話を頼むこともよくあるんだが、それにも限界があるから……。一人になったときに、キッチンのコンロで火傷をしてね」


ソファの上で泣き続ける女の子に近付いていくと、顔を覆う彼女の手の隙間から、顔の地肌がチラチラと見える。

涙でびしょびしょに濡れた彼女の顔に、痛々しい火傷の痕があった。

すべすべした幼い肌の一部が変色し、爛れている。


「悪いが、俺も妻ももう家を出なきゃいけないんだ。頼んだぞ、黒子くん」


二人が後ろでバタバタとリビングを出ていく音がしたが、黒子は少女から目を離さなかった。

持ち主は今しがた家を出ていったあの二人だが、自分が仕えるべき相手は、目の前で号泣するこの少女なのだ。

うああん、と声を上げる少女の前で、黒子は目線を合わせるように跪いた。

すると、少女が泣きじゃくりながらも黒子を見る。

どうにも泣きやめないらしい。

ひっくひっくと喉を鳴らし、こぼれ続ける涙を小さな手で拭いながらこちらを見る少女に、黒子は穏やかに微笑んだ。


「初めまして、黒子テツヤです」

「っ……くろこ……?」

「はい。黒子、テツヤです」


にこりと微笑んだまま頷く。

少女は、黒子を見ながらも時々「ふえ」とか、「うぅ」とか、我慢できずに声を漏らしている。

まだ薄い眉の間にも、小さな皺が寄っていた。

黒子は優しく問いかける。


「君の名前を、教えてください」


そう言われると、少女はグッと唇を噛み、嗚咽を堪えながら、涙に濡れるうるうるの目で黒子を見つめて、懸命に言葉を紡いだ。


「奥山、いろは……。っ、よん、さいです……!」


きっと、母親から「お名前を訊かれたらこう答えるのよ」といったふうに教育されているのだろう。

小さな手の親指だけを折り曲げて“4”のサインまで見せてくれたいろはに、黒子はしっかりと頷いた。


「奥山いろはさん、4歳。はい、覚えました。名前、上手に言えましたね。偉いです」


そっと頭を撫でてあげると、髪がとても柔らかい。

ふんわりした心地よい感触が、造られた皮膚の全体に埋め込まれた触覚に伝わる。

黒子は思わず目を細めた。

少し落ち着いたらしいいろはが、こてんと首を傾げる。


「おにいちゃん……なんでいろはのおうちにいるの?」

「君のお父さんとお母さんから、君のお世話を頼まれたからです」


その言葉に、いろはの濡れた瞳が大きく見開かれた。





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