OTHERSHORT
□mad yellow
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俺と彼女はクラスが違う。
だから滅多に会えないし、喋るなんてもっての外。
でもたまに、休み時間の廊下や昼休みの食堂で彼女を見かけると、つい姿を目で追ってしまう。
友達と笑い合ってる姿がすっごく可愛い。
彼女の隣にいる友達が俺だったらどんなにいいか。
彼女が一人でいるのを見かけると、“これはチャンス”なんて思って近付こうとするけど、あとちょっとのところで尻込みして、どうしようか迷ってるうちに彼女がどっかに行っちゃったり、友達と合流しちゃったり。
一人取り残されて、がっくりと肩を落とす。
(ホント、こんなの俺らしくないっスよね……)
もっとずっと彼女を見ていたい。
いつでも彼女と一緒にいたい。
そう思った俺は、彼女を見かけるたびに密かに写メを撮るようになった。
と言っても誤解してないでほしい。
例えば彼女の着替えを盗撮するとか、パンチラを撮ってやろうとか、そういう変態的なヤツじゃなくて……まあ、彼女のパンチラや着替えが見られるならそりゃマジで見たいけど……。
でも俺は、彼女の日常を撮るだけ。
歩いてる姿、笑ってる姿、後ろ姿、ジュースを飲んでる姿。
俺は周囲にバレないように携帯を忍ばせながらシャッターを切り続けた。
カシャ、カシャ、とシャッターを切り続ける俺の口元がついつい緩む。
(可愛い……可愛いっスよ奥山さん……ううん、奥山さんじゃなくて奥山っち……いや、いろは……超カワイイ……)
あれが俺の彼女だったらなぁ。
どんなにいいだろう。
バスケが楽しくて、あの子が俺の隣にいて……。
中学時代のチームメイトの黒子っちが違う高校に行っちゃって凹んでたけど、そんなことも忘れられそう。
まあ、今でも一緒にバスケしたいのは全く変わらないんスけど。
そんなある日のことだった。
今日も彼女の姿を網膜と携帯のデータフォルダに焼き付けようとしていた俺は、いろはが知らない男子と一緒にいるのを見てしまった。
休み時間、楽しそうに喋りながら教科書やノートを持って教室を移動する姿。
(は?……何アレ)
愕然とした。
(え?ちょっと待って……あの子、彼氏いたんスか?いや、そんなまさか)
今までそんなの一回も見たことなかった。
あんなにしょっちゅう彼女のことを見ていたのに、あいつが視界に入ることなんてなかった。
(そ……そうっスよね。こんなのたまたまで……ほんのグーゼン。あんな男と一緒にいるのなんて、今回限りっスよ……)
廊下の向こうに消えていく彼女の後ろ姿を見つめながら、俺は心の中で問いかける。
(ねえ、そうっスよね?いろは……)
あんな男と一緒に歩いてる姿を写真に収めるわけにはいかない。
俺は持っていた携帯をそっと降ろした。
でも、彼女とあの男が一緒に行動するのは一回きりじゃなかった。
それからあいつは、たびたびいろはのそばに姿を見せるようになった。
後ろからいろはを驚かせるように話しかけて、笑顔で会話するあいつ。
嫌がる素振りを全く見せず、楽しそうに笑って喋るいろは。
俺は困惑した。
(いろは?そいつ……その男、誰っスか?なんでいつもそんなに楽しそうなんスか?)
携帯のカメラのシャッターを切る手が止まる。
画面に映る彼女の笑顔が俺の胸に突き刺さる。
(なんで?俺はこんなに君のことが好きなのに……俺は毎日君のことばっかり考えてるのに、なんで君はそんな男のことばっかり見てるんスか?)
データフォルダにズラリと並ぶいろはの姿。
どれもこれも、俺のことなんか見てくれちゃいない。
彼女が俺に笑いかけてくれたことなんて、廊下でぶつかって少し話したときの一回きりだ。
(あの時、俺にあんな可愛い笑顔を見せてくれたじゃないスか……。ねえ、もう一度も俺を見てくれないなんて、寂しすぎるっスよ……)
どこかに向けられた笑顔を見てるだけじゃ満足できなくなった。
俺を見てくれなきゃ嫌になった。
でも、それから何日過ぎても、彼女は俺のことなんか一度も見てくれない。
他の友達や、あの男に向かって話しかけて、笑って、楽しそうにしてるだけ。
ズキズキと痛む心臓が、まるであちこちささくれ立ったトゲの塊になっていくみたいだ。
胸の中で揺れて、チクチクあちこちを突き刺して泣きそうなくらい痛む。
(ねえいろは……なんで俺を見てくれないんスか?)
(なんであんな男とずっと喋ってるんスか?)
(俺のことなんてどうでもいいの?)
(ねえいろは、俺を悲しませて楽しい?)
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