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□鯛焼き
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鯛焼き





「三郎ー、帰るよー?」


放課後。

早く家に帰りたくて、昇降口付近で立ち止まっている三郎を見た。

三郎は廊下を通りかかった友達と談笑しているようだ。

あれは確か、隣のクラスの久々知くんだったかな。

三郎は少ししてから彼と別れ、こちらに追い付いてきた。


「久々知くんと何話してたの?」

「ん?雷蔵とかハチの話」

「そっか、本当に仲いいね」


彼らの交友関係は、見ていてとても微笑ましい。

お互いに信頼しきっているあの様子と言ったら、友達というよりは兄弟にも近いかも知れない。

彼らがよく一緒にじゃれている様子を思い出し、靴を履き替える三郎のそばでこっそり笑った。

すると、三郎が下駄箱の扉を閉めながら「何?」と言う。

意地悪っぽく笑うような声だった。


「もしかして混ざりたいの?一人ぼっちは寂しいとかぁ」

「え!?なっ、別に!あんなとこ混ざれないよ!他の女子に何て言われるか……!」

「ふーん?」


三郎は少しつまらなそうに相槌を打ったが、すぐにいつも通りのニヤニヤした笑みを浮かべた。


「いろはチャンったら謙虚だねぇ」

「そうならざるを得ないからだよ……」


三郎も含めた彼らは、学校の中でも有名な男子集団だ。

そんなところに私みたいなパッとしない女が混ざろうものなら、多くの女子から反感を買うに決まっている。

そんな光景を想像しかけ、恐ろしくて慌ててやめた。

何故か三郎と付き合えているだけでもギリギリといった感じだ。

よく分からないけれど、何故か三郎は私と一緒にいてくれる。

いてほしくないときまで纏わりついてくるのがたまに面倒だが。


そんな三郎と昇降口を出る。

途端、冷えきった空気が全身にぶち当たった。

それに反応して、隣に立つ三郎の体が震え上がった。


「寒ッ!何だこれ!?」

「本当!すごく寒いね」

「いろは、私死ぬかも知れない……!」

「大丈夫、人間そう簡単に死なないよ」


私はのんびり笑って返した。

ちょっと寒いくらいで死ぬとか、適温で飼育されないと死ぬ動物みたいじゃないか。

三郎は案外デリケートな奴らしいので、あながち間違っていないが。

三郎が背中を丸めると、そこそこ高い位置にある彼の顔が少し近付いた。


校門を出て通りを歩けば、行き交う人々も寒そうにしていた。

吐く息も真っ白だ。

三郎がマフラーを巻いた首を竦める。


「地球温暖化とか信じられなくなるな……」

「夏は夏で、正反対のこと言っちゃうけどね」


私は苦笑した。


「三郎って寒がりだね。でも夏も苦手だって言ってなかった?」

「寒くても暑くても嫌だ。普通そうだろう?」

「そりゃあそうだけど……」


私だって暑さや寒さは苦手だ。

今こうして歩いていても、充分寒いと思っている。

けれど温かい上着にマフラーを巻き、上着の下にも着込んでいるからマシ。


一方、三郎はマフラーと上着は着ているものの、その下が駄目なのだ。

確か今日も、ワイシャツの上にセーターを重ねただけで、ブレザーは着ていなかったと思う。

色々と着込んでモコッとした私とは違い、三郎は体のラインがまだ何となく分かるくらいには着込みが少ない。

それで寒いなら、もう少し着込めばいいだろうに。

その寒そうな恰好を見ている私に気が付いたのか、三郎は憮然として言った。


「私が着膨れなんかしたら、全校と町内のファンが悲しむだろ」

「うわ、自意識過剰」


自信満々に言うその態度は、彼なりの冗談だと分かっている。

それでも面白くて、つい笑ってしまった。


「それはそれは、大したファンサービスだね」

「あと、雷蔵に合わせてたらこうなった」

「不破くん?ああ、不破雷蔵くんか」


二人は従兄弟同士なのに、お互いの親よりも顔がそっくりだ。

双子のように仲良くしていて、服装まで似せて、入れ替わりとかの悪戯なんかしているらしい。

それにしても不破くん、そんな薄着でも大丈夫だなんてたくましいな。


三郎は手袋もしていないので、寒そうに両手をポケットに突っ込んでいた。

それを見て、自分の空いた手を見下ろす。


(……手を繋いでみたいな、とか……)


思ったのだが。

こういうのは冬のお約束だと思うし、憧れでもある。

三郎はそういうのは嫌いだろうか?

三郎が手袋もせず、素手をポケットに突っ込むしかないのには理由がある。

本人曰く、手頃な手袋が見つからないし、煩わしいから自分で買う気もあまりないそうだ。

至って簡単だが、随分な理由だと思う。


(……そうだ、私が手袋を探して、クリスマスのプレゼントにでもしてみるとか?)


ふと思いついて、私は一人で頷いた。

三郎に不思議そうな目で見られたが、「何でもない」と言って頭を振った。


三郎へのプレゼントに、手袋。

うん、それがいい。

ポケットに手を突っ込んで歩いていたら、万が一転んだときに危ないし。

手も繋いでみたいし。

不破君と服装を揃えたいって言ってたし、じゃあついでに不破くんにも同じものを買ってみようか?

なんかだんだん方向が逸れていっているような気がするけど、不破くんにだってもうちょっと温かい服装を心がけてもらおうじゃないか。



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