RKRNSHORT

□鯛焼き
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全部食べ終わる頃には、私の手が鯛焼きの温度で随分温もっていた。

小腹は美味しく満たせたし、手も温まったし、一石二鳥だ。

これで三郎の手も同じように温もっているだろうか?


「鯛焼きのおかげでだいぶ手が温かくなったねぇ」


手をすりすりと擦り合わせながら言うと、三郎は空いた手をまた上着のポケットに突っ込むところだった。


「全然。カイロとかならともかく、鯛焼きじゃあなぁ……」

「どこまで寒がりなの……。……じゃあ、手、繋いでみる?」

「そんなんで温かくならない」


私は痺れを切らして言ったが、三郎はツンとそっぽを向いて一蹴するだけだった。

確かに手を繋いだって、心は温まるかも知れないけれど、実際の体温的には大した効果もないのだろう。

けれど、私だっていい加減に三郎と手を繋ぎたい。


私は速足で歩いて三郎に追いつくと、無言で三郎の上着のポケットに手を突っ込んでやった。


「うわっ!?」


びっくりしている三郎を余所に、ポケットの中の三郎の手を握る。

そしてその温度に驚愕した。


「うわッ冷た!?三郎、冷え症の女子みたい!!」

「放っとけ!ていうか女子って言うな女子って!」

「三郎、これがバレるのが嫌で手を繋いでくれなかったの?」

「……知らね」


三郎は憮然とした表情で素っ気なく答えると、首に巻いたマフラーに顔を埋めてしまった。

そんな三郎の不機嫌さを宥めるように、ポケットの中で、冷えきった三郎の手をぎゅ、ぎゅ、と握った。

すると、三郎が恥ずかしそうにそっぽを向きつつも、ポケットの中で手を握り返してくれた。

私が三郎の上着のポケットに手を突っ込んでいるこの体勢は、実はちょっとキツいのだが。

なんだかもう、嬉しくてどうでも良くなった。


ポケットの中で繋いだ手は、外気に晒してするそれとは違って、すぐにほんのり温もってきた。


「三郎、温かい?」

「……ん」


恥ずかしそうに、けれど素直に肯定する三郎があまりにも可愛い。

ちょっと、手袋をプレゼントするのをやっぱりやめにしようかなとか、思いそうになった。


ポケットの中で手をつないで歩いているうちに、さきほど鯛焼きを食べた口が、今度は飲み物を欲しがり始めた。


「……ねえ三郎、お茶飲みたい」

「よし、どっかコンビニ寄って温まろう!んで熱いお茶でも買おう」


即答する三郎は、どうやらポケットの中で手を繋ぐだけでは満足できなかったらしい。

コンビニに向けた足の動きが心なしか速くなった辺り、そんなに寒いか鉢屋三郎よ。


あと、それから。


「……三郎、人の手をポケットの中でいやらしく擦るのやめて」

「いや、人肌っていいなぁと……。……大丈夫さ、誰も僕たちを見ていないよ、いろは」

「三郎、そのノリ寒いよ」


……こうやって馬鹿らしくふざけ合って歩く帰り道が、この上なく幸せです。










*了*





アトガキ



三郎との帰り道は楽しそう、という妄想から出来上がったお話です。



これを書くために、学校の帰り道で鯛焼きを買って食べて、温かいお茶を買うところまで実践しました。

……一人で!(;∀;)




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