OTHERSHORT
□輪廻の果て
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亡者を裁く大いなる存在、それが閻魔(あなた)。
亡者を苦しめる恐ろしい存在、それが獄卒(ぼく)。
鬼は閻魔の従順な配下。
どれだけ転生しても永遠に配下。
「俺の言うこと聞いてくれるよね、鬼男くん」
冥界の王が笑った。
縦に裂けた瞳孔を包む赤い目を細めて妖しく笑う、絶対的な存在。
「俺の命令だったら何だって出来るよね、鬼男くん」
静かに問いかける声に、鬼男はゆっくりと微笑んで見せた。
「当たり前です。貴方のためなら、何だって…」
消えかけて、透き通った手をそっと白い頬に添えると、彼はその手を優しく握って苦しそうに笑った。
「鬼男、くん?」
自分の掌に重ねられた鬼男の褐色の掌に、閻魔は驚いたように目を丸くした。
パチパチと瞬きを繰り返す閻魔に、鬼男の浅黒い肌が赤く染まっていく。
心なしか鬼男の掌も熱い。
「ど、どうしたの、鬼男くん?」
新手のお仕置きか?と思いながら小さく訊いた閻魔に返ってきた言葉は、何百年、何千年、何万年ぶりに感じるだろうかも分からないほど………いや、初めてかも知れないほど、閻魔の心を大きく動かした。
「ハッキリ言います。アンタが好きです」
「………え」
す、き?
好き、って。
「それって……」
「分かってます。貴方は閻魔大王、僕は貴方の配下で鬼。しかも両方男。でも、たまらなくなってくるんです。………貴方が、好きだ」
「鬼男……くん」
鬼男の赤い顔を見れば見るほどに閻魔も恥ずかしくなってくる。
閻魔か鬼か?
男か女か?
単に性格とか?
何を取っても嫌悪が生まれない。
ただただ恥ずかしい、
――嬉しい。
「俺……」
愛しい。
恥ずかしくて、嬉しくて、愛しくて、閻魔は笑った。
「大丈夫。俺も、鬼男くんのことが好きだから」
「…尊敬とか、友情とか、そんなんじゃありませんよ?僕が言っているのは――!?」
閻魔に飛びつくように抱きつかれ、言葉を飲み込む鬼男。
顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉する鬼男に、閻魔はにっこりと笑いかけた。
「分かってる。俺は鬼男くんのこと、大好きだから」
「………はい、僕も、好きです」
後ろに回される腕に、閻魔は嬉しそうにきゅっと目を閉じる。
そんな閻魔を抱き寄せて、二人の間に少しも隙間も出来ないほどに腕の力を強くする鬼男。
――嗚呼、しあわせ。
「ずっと貴方のそばにいます…。貴方のために生きるって誓います」
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