OTHERSHORT
□ときめかせ屋
3ページ/4ページ
とりあえず自分の部屋に戻ると、計画していた通りに雪だるまをシンクにそっと立てた。
もはや感覚がなくなっている手をお湯で温め、ほうっと息を吐く。
温かい室内で、雪だるまはますますジワリと溶け出した。
「服…ビショビショだし、お風呂入ろ」
シャワールームで今日一日の出来事を考えるのが知らないうちに日課になっている。
熱いシャワーを浴びながら、ネロが自分にくれた雪だるまのことを思い出す。
(ネロってちょっと素直じゃないし…あんなふうに物をくれるの、嬉しかったな…。きっとすごく寒かったよね…)
今度、お菓子でも作ってお礼ぐらいしてやろうかと思う。
何がいいだろうか?
ネロにあげるなら、いつもお世話になってるお礼としてキリエにもあげよう。
ああ、それならクレドにも…。
(みんな喜ぶかなぁ)
思わず笑顔になりながらシャワーを終えて髪を拭きながら歩いていると、ふとシンクの雪だるまが目に入る。
お菓子のことを考えすぎて若干忘れていた。
「だいぶ溶けてきちゃったねぇ…」
小さく呟いてシンクを覗き込んだ途端、水浸しになった雪だるまがグシャッと倒れた。
「あぁ!」
慌てて触れてみるが、熱を持った手ではますます溶けていくだけ。
呆然と雪の塊を眺めていると、ふとあることに気がついた。
「…中に何か入ってない…?」
雪が冷たいのを我慢してそっと掘り返すと、中から青い箱が出てきた。
濡れてはいるが、独特のサラサラした質感、角の丸い立方体…。
「これって」
慌てて拾い上げて恐る恐る開いてみる。
「………っ!」
ひやりとした冷気と共に見えた輝き。
思わず踵を返すが自分が身体にバスタオル一枚しか纏っていないことに気がついて慌てて服を着、髪を梳かす。
壁にかけたコートを引っ張って走りながら袖を通し、ポケットに例の箱を押し込み家を出る。
今の時間ならネロも家に帰っているだろう。
10分ほどの道のりを微かな街頭に照らされながら全力疾走し、ネロの家のドアをネロ同様クレイジーに押し開けた。
「ネロッ!!」
「いろは!?」
「っこれ!!」
机の上にドーンとスタイリッシュに置かれた箱を見て、椅子に座って銃を弄っていたネロが目を見開き口も開く。
ゴン、とブルーローズが床に落ちる鈍い音がした。
「こ、これ、ネロっ…本当に?本当!?」
「な、何がっ!」
「何がって…っ、これ…本当に…くれるの…!?」
ネロは赤くなった顔を片手で覆うが、いろはから箱を取り上げると手で弄ぶ。
「…要らないのかよ」
「い、いる…っ!」
シルバーの、美しい指輪。
即答したいろはに、ネロが可笑しそうに笑う。
箱を開け、中からスッとソレを取り出すと、いろはの左手首を掴み指まで手を滑らせた。
左手で指輪を持ち、左手でいろはの手を握っている。
………嵌められない。
ネロは少し顔を顰めると、指輪をそっと唇に挟んでみせた。
器用に縦に咥えたそれがいろはの左手の薬指に通り、時々ネロの唇が触れる。
緊張とドキドキで震えるいろはの手の甲に、仕上げにと軽く口付けて上目遣いにいろはを見た。
「雪漬けの指輪…冷たかったか?」
「丁度いいよ…今、すっごく身体が熱いから」
ネロがクス、と笑って立ち上がり、いろはの身体を引き寄せて抱き締めた。
「どうやって渡そうか悩んでた…出来るだけ喜んで欲しかったんだけど、お気に召した?」
「召さないわけないよ、ネロからのプレゼントだもん…!雪だるまのお礼にお菓子作ってあげようと思ってたのに…指輪なんて、お礼が思い浮かばない…」
「お礼が欲しくてプロポーズしたと思ってんのか?」
「うっ…いや、それはないとは思うけど…」
「でも、そうだな…もし何かくれるってんなら……いろはからキスして」
そっと囁かれた言葉にますます照れて、指輪の冷たさを完全に感じなくなってしまった。
ネロが目を閉じて、恥ずかしさにしばらくうろたえて、時間をたっぷりと要した後で、ようやく影が重なった。
*了*
オマケ&アトガキ⇒