すぺしゃるめにゅう【捧げ物】

□無邪気な君に完敗です!
3ページ/8ページ

「ユ、ユーリ!?
いつからそこにいたんです!?」
振り返ればにやりと笑う青年の姿。
「リンゴをタルトに盛ってる辺りからだな」
「そんな所から…。どうして、
声を掛けてくれなかったんです?」
「どうして…って」



エステルが昼頃から宿の台所を使って、
何やら頑張っている事は分かっていた。
ラピードの姿も見当たらないから、
また千切りの練習かと思った。
彼女は覚えた事を自分の物にするのに、
如何なる努力も惜しまない。
その殆どにラピードは協力する。
“べったり”では無いのだが、
気付けばいつも彼女の傍に座っている。
だから今度もそれだと思い、
キリのいい所で止めようと台所に来た。
あんまり野菜を虐めてやるなよと、
そう言うつもりだったのだ。
だが、その言葉は発せられる事は無かった。

廊下に漂う甘い匂い。
菓子を作っているのだとすぐに分かった。
この匂いはリンゴだろうか?
そう言えば先日レイヴンが、
大量のリンゴを持って帰って顰蹙をかっていた。

あわよくば分けて貰おうと機嫌よく台所に入れば、タルトにリンゴを盛る後ろ姿。
『リンゴのタルト、完成です!』
ぱちんと手を打って喜ぶ姿に、
笑みが零れた。
目の前のタルトは、
小さめのを幾つも作ってある。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ