すぺしゃるめにゅう【捧げ物】

□無邪気な君に完敗です!
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その日もエステルは頑張っていた。
大好きな人の大好きな物を、
上手に美味しく作れる様に。

型に敷いて重石を乗せて、
サックリと焼き上がったタルト生地。
ちょっと大きめに角切りにして、
酸味を生かして甘酸っぱく煮たリンゴを、
こんもりと盛れば完成だ。
それだけではちょっと素っ気ないので、
ミントの葉を飾って。

手のひらよりも少し小さめの。
「リンゴのタルト、完成です!」
ぱちん、と手を打って笑う。

同じくリンゴをたっぷりと使ったクラムケーキも、もうすぐ焼き上がる。
オーブンの窓から見えるケーキは、
いい色合いに焼けている。

沢山のリンゴは“幸福の市場”のカウフマンからの押し付…もとい、差し入れ。
『新しい品種のリンゴを育ててみた所、
酸味が強くて売り物にならない』
と悩んでいた彼女から、
レイヴンが貰って来た物だ。

「レイヴンとカウフマンさんに、
お礼をしないとです。
パイはお好きでしょうか?」
後で焼いて持って行きましょう。
などと、約一名にとってはある種の拷問の様な事を呟いて、
エステルはふふっと笑った。

「………美味しいって、
言ってくれるでしょうか?」
「誰がだ?」
突然背後から声を掛けられ、
肩がびくぅっと跳ね上がる。
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