中・長編

□月姫:2
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「…、ハァッ、ハッ、ハァ、」
三日三晩かけてやっと辿り着いた帝都は、
あの噂が嘘みたいに静まり返ってた。
下町の喧騒も無く、
市民街の市場もみんな店を畳んじまって、
出歩く奴も見当たらない。
「…んだよ、これ」
何で城から黒い幕が垂らされてんだ?
何で家々の窓辺から同じ様な幕が下がってる?
その黒い幕に、
何で皇家の紋章が刺繍されてる?



ガタリと背後で音がした。
振り返ればドアが開いて、
フレンとハンクス爺さんが出て来た。
「それじゃ、そういう事でお願いします」
「ああ、ああ…。
それが嬢ちゃんの願いなら。
儂らも嬢ちゃんには、
随分世話になったからなぁ…」
爺さんの横から顔を出したのは、
ありゃテッドか?
随分デカくなった…。
「僕らも後でお城に行くよ。
入団試験の手続きもあるし、……。
ちゃんと、お別れしたいから」
堪える様な不自然な間が開いて、
テッドは俯く。
「あんたの初恋だもんねえ」
後ろから聞こえたのは、
女将さんの涙で湿った声。
「…へへ、………っ、」
堪えきれない様子で腕で顔を覆ったテッドの頭を、フレンが少し乱暴に撫でる。
「みんなでおいで。
賑やかな方が、お喜びになられるから」
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