中・長編

□月姫:2
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よくよく耳を澄ませば、
あちこちで響いているのは啜り泣く声。
心臓は煩い位に早鐘を打つのに冷たくて、
指先から冷えていく。

何だよ、一体…。



ふと、テッドがこっちに視線を向ける。
「………ユーリ」
その声で俺を見たフレンは、
最後にギルドの依頼で会った、
あの時と同じ顔で笑った。
「やあユーリ、お帰り。
それじゃみんな。僕は忙しいからこれで」



城に向かう坂道を駆け上がる。
「待てよ、フレン!」
「忙しいと言っただろう?
遊んでる暇は無いんだ、
今城に詰めているみんなは特にね」
「副帝殿下が危篤だってな」
ぴたりとフレンの足が止まる。
それまで振り返りもしなかったのに、だ。
「何で言わなかった」
「君は旅の途中だったんだ。
どこにいるかなんて、
僕に分かる筈ないじゃないか」
フレンは振り向かないまま答える。
「居場所の分からない人間に、
よく依頼なんか出来たな?」
詰め寄れば、やっと視線を寄越した。
「そうだね、カウフマンさんとカロルには感謝しないと」
そのまま歩き始めるフレンを追って、
俺も城への階段を登る。
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