その瞳にひかりを

□第一話−逢の間−
1ページ/6ページ






雨の日の翌日と言うのは、大抵がまた雨か晴天晴れのどちらかであろう。
どうやら今日の場合は後者のようだ。

屋根にとまっていた雀が囀り羽ばたく中、その家の唯一の住人、楮 武瑠(こうぞ たける)は目を覚ました。
とは言っても、武瑠はまだ中学三年生の受験生であり、親が既に亡くなっていて一人暮らしをしているという訳ではない。

武瑠の両親は父親が日本人で母親がタイ人であり、実質上その間に生まれた武瑠は日本とタイのハーフと言う事になる。
しかし、日本で生まれ、日本で育った為、タイの言葉を話せると言う訳でもないし、黒人同様黒いという訳でもない。
ただ少し日本人より肌が焼けているように見えるが、それは個性として取られる程度のものだろう。実際、彼の周りには更に肌が黒い者もいたりする。

話が逸れたが、今この家に武瑠の両親はいない。
それは、夏休み初日に二人が出会った場所だと言う母親の母国、タイに長期の旅行に出たからである。その為、二人の邪魔をしたくなかった武瑠だけこの家に残っているのだ。

だがしかし、今この家に存在しているのは武瑠だけではない。
ペットかと訊かれれば、確かに白猫のミルクを飼ってはいるが違うと言えよう。

そこまで難しい問題でもない。答えは人間だ。
しかし、人間と言っても迷子になった子供をとりあえず預かっているという訳ではなく、両親が旅行に出たという事を知らずに来た親戚と言う訳でもない。

焦らさずにさっさと教えろと言われては困るのでここで発表しておこう。
伊駒 桧里(いこま かいり)と言う少女だ。
武瑠のクラスメイトであり、特別仲が良いという訳でも悪いという訳でもない。
同じ部活に入ってはいたが、最後の大会が終わり既に引退しているし、話した事があるのかと訊かれれば、頷けるかは分からない程度である。

つまり微妙だ。

そんなクラスメイトが家に居る。それは何故か。
遊びに来たという前提すら首を傾げなければならないだろうが、まあとりあえずそうだとしよう。

考えてみよう。今は何時だろう。

最初に綴った通り、武瑠は今起きたばかりだ。
別に武瑠は、休日は起きるのが遅いという訳ではない。それなのに既に桧里は家の中に居た。

これはつまり、どういう事か。これまた答えは簡単。

桧里は昨日からこの家に居た。

つまり、一泊したという事だ。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ