その瞳にひかりを
□第二話−陰陽の間−
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「力が欲しくはありませんか?」
突然現れ、女は言った。
「ちから?」
「はい」
笠に隠れた目を細め、女は答えた。
「力など、とおに持っておるわ」
「それは、秘宝を護るための物でしょう。私が言っているのは、そのような物ではありません」
「ならば、何だと言うのだ」
「善妖ともあろう狐が、この程度を判らないとは…」
呆れた様子の女は息を吐く。
「ほざくな。たかが数十年しか生きられぬ人間が、大層な口をきくでない」
「人の命は、短いとでも?」
「他に何が言える」
「たとえ短くとも、その間に得られることは、妖怪には判らぬことです」
その時、笠から現れた女の瞳は、彼女の着ている仏教僧侶の袈裟と同じ紫紺色をしていた。
「私が言った力とは、今の貴方にはない物」
きん!と、女は片手の錫杖を鳴らし、もう片方の手をこちらに突き出す。
「命(ひと)を護る物です」
その瞬間、俺の体は光に包まれた。
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