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□わたしの
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わたしの
「銀ちゃんなんか大っ嫌いアル!このイ○ポ野郎!」
バタバタと家を出る。
きっとあなたは追い掛けてきてはくれない。
わたしなんかよりあなたのまったいらな胸に顔を埋めていた、わたしの大嫌いな男のほうが好きなんでしょう?
あなたはわたしたちの前と、男の前では違う顔をする。
わたしの頭を撫でているときのふわっとした顔、新八をからかうときのとぼけた顔、わたしたちを護るときの険しい顔――――
わたしたちには全ての顔を見せてくれていると、どうして勘違いできたんだろう。
こんなのは、あなたのほんの一部
頭を撫でられているときの照れた顔、会いに来たときの嬉しそうな顔、ほっとした顔、喧嘩したときの寂しそうな(でも怒ってる)顔、―――抱かれるときの顔
全部全部あの男しか引き出せない顔で、あの男しか見れない顔。
わたしのほうが先に“かぞく”になったのに。
どうして?
ねぇどうして銀ちゃん―――
てくてくと少し遠くまできて、やっと傘を忘れたことに気付いた。銀ちゃんのことだからきっと心配している………はず。
定春もいないのにこんな遠くまで来てしまった。帰り方なんてわからない。―――あなたもいない。
チカッ、と何かが光って顔を上げてみると、夕陽に照らされてキラキラと光る川だった。
草いっぱいの土手に体育座りし、輝く風景を眺めた。
「こんなトコで何してんでぃ」
後ろから聞き慣れた嫌いなヤツの声。
今顔を見るとあの男を思い出しそうで、余計に嫌だった。
「川眺めてるアル」
「んなもん見りゃわからぁ。こんな遠くまで来て何してんだぃって聞いてんだよ」
何も答えず黙っていると、ドカッと隣に座ってきた。
「……隣くんなヨ」
「何があったか知らねぇが、早く帰らねぇと旦那が心配するぜぃ」
「……うるさいネ。今帰るとこアル!」
知らない道を明るいほうへ、明るいほうへと歩いて行く。
「ついてくんなヨ」
「嫌だねィ。それより、旦那とうちのマヨネーズバカは別れやしたかぃ?」
「……今朝までラブラブちちくり合ってたアル」
「ああ、お前それで拗ねてんのかぃ。旦那とられたから」
「お前に何がわかるネ!!」
思いっきり胸倉を掴んでいるのに、顔も歪めずわたしを見下ろす。むかつく。
むかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつくむかつく
「お前らが銀ちゃんと会わなかったら!銀ちゃんがわたしたちから離れることなかったアル!わたしたちの…っ、わたしの銀ちゃんだったのに………!」
「―――旦那はいつから、お前のもんになったんでぃ」
視界がぼやける。
それでもキッとコイツを睨んだ。
「あの人は誰のものにもならねぇし、誰にも束縛されない。……だからお前らは、あの人に惹かれたんだろぃ?」
「……そうだけど、でもっ」
「それにそれは、あの野郎だってわかってる」
そう、なんだろうか。
いつも我が物顔でウチにやってきて、当たり前のようにあの人を独占するのに。
「………信じられないアル」
「まっ、土方さんの肩持つなんて俺の性に合わねぇんで、信じようが信じまいがお前が決めな」
帰るぜぃ、と言ってわたしの前を歩く背中を一定の距離を保ちながら帰った。