short
□愛香
1ページ/1ページ
愛香
久しぶりにゆっくり会えると言う土方の家に泊まりに来た。テスト期間中バイトを休んでいた分、その後アホみたいにきっちりシフトを詰めた土方とは、実に二週間近くもまともに会っていなかった。だから今日は我慢していた気持ちのまま、素直にいちゃいちゃできるかなとドキドキしたりして……いたんだけど。
「なんか……」
「どうした?」
さぁ寝ようというベッドの上。
ちょっとえっちなことも考えちゃって心臓が飛び出しそうになっていたのに、一気にバックンバックンしていた音が止んだ。
「……お前のベッド、他のヤツの匂いがする」
「は?」
いつもの煙草と土方の匂いが薄いベッド。そして明らかに別のヤツの匂い。……まさか、
「お前忙しいとか言って実は浮「んなことするわけねぇだろ!馬鹿かてめぇは!」
浮気ではないらしい。確かに女の匂いって感じじゃないし、こいつは男にゃ興味ない。…まぁ俺は男だけど。
「じゃあ誰の匂いなんだよ。明らかにお前じゃねぇじゃん」
「あー…、たぶん近藤さんだな。昨日バイト帰りに泊まってったんだよ。そん時ベッド貸して俺は床で寝た」
「……………ふーん」
「…なんだよ」
なんつーか、俺のことは泊めてくんなかったくせに近藤のことは泊めてたのかと思ったら、なんだかちょっと笑えない。
こいつが近藤を大事に思ってることも知ってるし、何にもないことだってわかってる。どうせまたお妙にフラれでもしたんだろう。
だけど、他の誰かと過ごす時間があったなら、俺と過ごして欲しかった。俺は土方と一緒に居たかった。そう思うのは、過ぎたわがままなんだろうか。
「……悪かった」
「…なにが」
「お前のこと、放っといちまって」
「別に何とも思ってねぇよ」
「じゃあ、そんな顔すんな」
そんな顔ってなんだ。目が潤んでることなら気にしなくていい。風呂上がりのただの乾燥だ。いやーこの時期は空気が乾燥して泣きながら寝るのなんてよくあることだよね、うん。けして久しぶりに会ったのにこんな気持ちになってグスン…とかじゃねーから!お前は俺より近藤が大事なのかとか女みてーなこと思ってるわけでもねーから!
「……俺だって本当はずっと会いたかった。キスもしたかった。壊れるくらい抱きたかった。お前の作った飯も食いたかったし、行きたいっつってた買い物だって一緒に行きたかった。近藤さん泊まらせたのは酔ってたのと終電がなかったからだよ。じゃなきゃさすがに俺もあんな夜中に泊まらせたりしない」
「……だから、俺は別に、」
「強がり」
ほら、と広げられた腕の中におずおずと潜り込めば、寝巻なのに煙草の匂いと男くさい土方の匂いがした。男くさいっつっても別に臭いわけじゃなくて、男らしいって感じるっていうか、ドキドキするっていうか……やっぱ今のなし!
「寂しいなら寂しいって言えよ。変に気遣うな」
「うっせー、ばーか」
「もう寝るか?」
「………壊れるくらい抱いてくれんじゃなかったの?」
ちゅっと軽く唇を奪うと、少し呆気に取られた後、いやらしく妖艶に微笑んだ土方が覆い被さってきた。
「……このベッド、お前の匂いでいっぱいになるな」
「…変態」
自分の身体が土方の匂いに染まっていくを感じながら、俺は朝まで愛されたのだった。
end.