short

□mellow
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mellow





――付き合う条件?そうだな…。顔はいいに越したことはねぇな。あと腕にすっぽり入るくらい細身で、それから料理上手で、人に気が遣えるやつで、それから―――


学生時代、土方は酒の席で長々とそう語っていた。酒に弱いから、酔って言った言葉は本音に近かったと思う。

それを聞いてショックだった。

顔はまぁ、いい方だと思う。てか普通?それに料理できるし、土方も旨いって言ってくれた。
だけど土方と同じ身長で、何より男だから細くないし。自他共に認めるマイペースだから、人に気を遣うなんて面倒でしたことない。

だから土方の理想には程遠くて、男であることを恨んだ。





あれから数年。
俺は今でも土方に恋をしていた。

「ハーイ、もしもしー?」

『俺だけど』

「……どこの俺様ですかー?」

『今日明日仕事休みなんだろ?これからお前ん家行くから夕飯用意しといてくれ。じゃ』

「ちょ、土方?…切れてるし」

こちらの話を一切聞かずに電話が切られる。
土方はいつもこうだ。
何かと理由をつけては俺の家にやって来て飯を食って酒を飲んで、朝になると雑魚寝してたはずが、何故か2人仲良くベッドに寝ていたり……本当に心臓に悪い。



「邪魔するぞ」

「お前さ、毎回言ってるけどいきなり来るのやめてくんない?銀さん困るんだけど」

「ああ、悪ぃ。ほら、ウチの店のイチゴタルト」

「しょうがねぇな!今日はつまみも作ってやるよ!」

お互いに就職してからも、こうやって互いの家に行ったり交友は続いている。
でもそれは本当に"交友"で、俺が望むような関係には進展しそうにない。

「タルトちょーうめー!」

「売れ残りだけどな。お前が処理……喜んでくれてよかった」

「今思いっきり処理って言ったよね!?売れ残り処理してくれて嬉しいってか!」

「そりゃあ捨てられるより食ってもらった方が嬉しいだろ。……そんなんでも、お前は喜んでくれるしな」

「……っそ」

たまに向けられる優しい顔。たったこれだけのことで俺はドキドキして、堪らない気持ちになる。

「…自分で食えばいいじゃん」

「甘いもんは好きじゃねぇ」

「………なんでパティシエなったんだよ」

わざわざ海外まで修業に行ったのに、よくわからない奴だ。


宅呑みだと酒に限りがあるから、馬鹿みたいに酔わず程よく体が火照って気持ちいい。
飯もなくなり、つまみも底をついてきた。

「まだ何かいるか?」

「そうだな……。そろそろお前の卵焼きが食いてぇ」

「好きだねぇ卵焼き。いっつもシメはそれだも、ん……な?!」

「銀時!!」

思っていたより酔っていたようで、立ち上がった瞬間体が傾く。テーブルに頭をぶつける、そう覚悟した。

「……っぶねぇ」

「ぁ、わ、悪ぃ土方」

あとテーブルと数センチというところで土方に抱き留められた。
ドキドキと脈打つ胸が、土方の腕の中にいることをだんだんと頭に理解させる。

「…あ、のさ、もう、離しても大丈夫だから」

「ああ」

返事をしても一向に離してくれない土方に、なんだかこの状況でいてはいけないような、焦りにも似た感情が襲ってくる。
体を離そうと肩を押しても、さらに強く抱き込まれるだけで、全く効果はなかった。

「土方…?」

「……銀」

ふいに合わさった視線に、優しく……甘く呼ばれた名前。
閉じられていく瞼が、やけにゆっくりと感じられた。

ちゅ…――

「―――っ!!」

ドンッ!

「銀と――…っ!」

「さわんな!!」

土方を突き飛ばして逃げるように玄関を出た。

何が起きたのかわからなかった。ただ、触れ合った唇の温かさだけがいつまでも消えなかった―――




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