short
□寂しい夜
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寂しい夜
虫の鳴き声が響く。
それくらい静かな夜はなんだか心淋しくなる。
せめて泣いてしまえたら楽なんだろうけど、この歳になって夜に一人泣くなんてのはあまりに怖い。……誰かいてくれたら、まだ泣けるのかもしれないけど。
こんな日は思うんだ。
やっと出会えた唯一のお前という存在がいなくなっても、きっと俺は今と変わらず生きていけて、最期だって笑顔で『幸せだった』と言って逝くんだろう。
それと同じように、お前は俺がいなくなってもいつものように仕事に明け暮れて、最期はきっと戦いの中で自分の武士道を貫く為に死ぬんだろう。
俺には、それが怖い。
そんな風に生きていく自分も、生きていくんだろうお前も。
お前は俺を甘やかしてくれて、見ててくれて、優しくしてくれて、何より一番愛してくれるから。
そこまで話し終わると、外はもう光が街を照らし始めていた。
光が当たる頬に伝う温かいものを、さらに温かい土方の指が攫っていった。
「……俺は欲張りだ」
こんなに優しい顔をした土方は初めてで、微笑むでもなく、眉間に皺を寄せるでもなく、俺を見つめている。
俺はきっとこうやって土方が居てくれるから、幸せに生きていられるんだろう。
「俺は、俺がいなくても生きていける土方なんていらないって、そう思ってる」
この世界が、俺とお前の二人きりだったなら、お互いが絶対に大切で唯一の存在なのに。
そんな、朝日の差し込む綺麗で静かな朝は、気が付けば俺と土方の二人きりだった。
fin.
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愛 think so,*初音ミク