short
□Rainy Blue
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Rainy Blue
夕方から降り出した雨は夜中になっても止まず、静かに万事屋の屋根を叩き続けている。
俺を抱きしめて眠る男にその雨音は害にならないらしく、ぐっすりと夢の中のようだ。
こんな雨の夜は嫌でも思い出す。
一面に広がる屍
火薬と鉄のにおい
赤い野原に灰色の空―――――
そんな時代を駆けた、俺たち
忘れられるはずもない。
いつだって苦しくて、泣きたくて、悲しくて、自分には何もなくて、………失くなってしまって。
なんのために戦ってきたのか。
そんな大事なことさえわからなくなってしまうほど、あの時代は狂っていた。
「………痛ぇ」
「んー…?銀、…どうした?」
雨音は気にならないくせに、俺の声にはちゃんと気付いてくれる。未だ外からはパシャパシャと雨が鳴っていた。
「どうした?」
黙っていた俺を訝しく思ったらしく、彼はすっかり目が覚めてしまったようだ。
「んー?…別になんも」
「どこが痛いって?」
「………しっかり聞こえてんじゃねぇか」
「で、どこが痛ぇんだよ」
眉間に皺を寄せながら顔を覗き込んでくる。
心配をかけてしまったと思うと同時に、心配してくれたんだと痛かった胸がさらにギュッとなる。
「……なにニヤついてんだ」
「んふふ。べっつにー?…………なぁ、抱きしめて」
そしたら治る、と適当に言って相手に向かって両手を広げる。
珍しい俺の態度に驚いたのか、寝起きでも開いていた瞳孔がさらに見開かれた(なかなかに怖い顔だ)
「珍しいな。てめぇが甘えるなんて。本当になんかあったのか?」
心配そうな物言いとは裏腹に、顔のニヤけがハンパない。
ニヤニヤすんな気色悪ぃ。
これから寝るというのに、逞しい腕に力一杯抱き込まれる。
少し苦しいくらいだったが、そんな窮屈ささえ愛おしくて、自分から彼の胸板にすりよった。
「………なぁ、本当になんかあったのか」
「なんもねぇって。しつけーな」
「背中、汗かいてんぞ。怖い夢でもみたか」
「……てめぇじゃあるめぇし」
「あ゙?!」
「ほら寝ようぜ?朝早いんだろ」
また俺がすりよると、彼もまた自分のいい位置に俺を抱き直した。心地のいいそれにだんだんと瞼が下りてくる。
「おやすみ、土方」
「……ああ、おやすみ銀時」
こんな雨の夜は嫌でも思い出す。
あの日あの時の痛み、苦しみ、悲しみ、全部が襲ってくるけれど、この温もりが俺を守ってくれるから。冷たくなった心を温めてくれるから。
もう、大丈夫
―君がいれば―
fin.