short
□愛しい人。
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愛しい人。
枯れ葉が冷たい風に揺れ、はらはらと落ちていく。
そんな風にして出来た葉っぱだらけの道を、白い花束を持って歩いていく。
時が流れるのは早いもんだ。
俺が結婚してすでに3年経ち、生まれたばかりの息子もだんだんと表情が豊かになってきた。
けれど変わらないものも確かにあって、未だに近藤さんは志村姉を追い掛けているし、総悟の悪ふざけも相変わらずだ。
そんな、どこにでもありそうな、幸せな風景のはずなのに、俺の目にはいつもモノクロに写る。
カラフルな色があるわけでもなく、キラキラと輝くわけでもない。ただただ白黒の風景が広がっているだけだ。
「―――よう、どうだそっちは」
返ってくるはずのない話を、ここで何度してきただろう。
この小さな石の塊だけが、そんな馬鹿な俺を嘲わないでいてくれるようだった。
「もう、10年か………早ぇな」
なぁ、お前への気持ちを忘れるのに何年も掛かったんだぜ?普段“好きだ”とか“愛してる”だとかをろくに言えなかった俺が、お前への気持ちを忘れるのに数年。
馬鹿みてぇだろ。
やっと忘れられて、結婚もして、ガキも生まれて………なのにこれはなんだ?
どっかポッカリ穴が空いちまって、どんなに幸せな事があったってそこは埋まらない。
俺にとってお前は恋人以上の存在で、“愛してる”なんかじゃ足りなくて――――
そう、ただ大事だったんだ。
抱きしめ合わなくてもいい。
キスしなくてもいい。
抱けなくてもいい。
ただ俺の傍で、ずっと笑っていて欲しかった。
「…っ、銀時―――」
お前への気持ちを忘れた?
そんなことありえない。
今の家族は掛け替えのないものだけれど、お前が居ない。
お前がいい。
お前じゃなきゃ、銀時じゃなきゃだめなんだ。
こんな墓石の前でどれだけお前を想ったって、お前が還ってくることはない。
それでも俺は、お前を想うことをやめられないんだ。
fin.