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□あ、いたい
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あ、いたい
土方が出張へ出て二ヶ月半。
最初は毎日していた電話も、今では一週間に一回、悪いときで二週間に一回というペースになった。忙しいのはわかってる。
けど電話ができなくたってせめてメールとか……と思ってしまうのは、やっぱり自分は女なんだなぁと少し恨めしく思った。
こんなに土方と離れるのは初めてのことで、らしくもなく電話越しに「好き」とかしおらしく言ってみちゃったり。
でも肝心の一言が言えないまま、今日も今日とて電話はこない。
「もうすぐ帰ってくるはずなんだけどなぁー……」
毎晩玄関に座り、磨りガラスに黒い影が映るのを待ってみる。
出張は二ヶ月だと聞いていたのは、何かの間違いだったかなぁ?
「………もう、今日は寝るか」
きっちり一時間待って、それでも今日も帰ってこなかった。
“帰ったら一番に会いにくる”
そう言ったのはお前だろう?
ぎゅうっと締め付けられる胸が苦しい。鼻までツーンとしてきた。もう嫌だ。寂しいよ。苦しいよ。辛いんだよ。痛いんだよ。
早く帰ってこい 土方
「まだ起きてたのか」
「……………へ、」
「こんなとこで何してんだよ。風邪引くぞ」
「ひ、土方……?」
「おう。……ただいま、銀時」
いつの間にか玄関の戸は開いていて、右手に三本、左手に二本の酒瓶が入ったビニール袋を引っ提げた土方が、優しげに俺を見下ろしていた。
「お、かえり」
「ああ。ほら、土産。腐ると悪いから食いもんは買って来なかったぞ。代わりに上等な酒五本も買ってきてやったから、これで我慢しろ」
重そうな瓶をひょいと上げて見せて、男臭くニカッと笑った顔はどこか少年のようで。
ああ、この顔が見たかった。
「今から呑むか?どれからにする?全部地元で有名な酒なんだと」
「………まんなか」
「は?真ん中?どれだ?」
「土方がいいのっ」
ギュッと抱きついて肺いっぱいに土方の匂いを吸い込めば、別れた時よりも強いタバコの匂い。
深呼吸するようにすぅっと吸い込んで、ふぅとはいて、………ああ安心する。
やっと俺んとこに帰ってきた。
「どうしたんだよ」
「ニヤけながら聞くな」
「抱きしめてぇんだけど、一旦離れてくれねぇと酒が置けねぇ」
「……半月遅れた罰だから、まだ抱きしめちゃダメ」
そういうと、土方がクスッと笑ったのがわかって、一言言ってやろうと顔を上げたら、ちゅっ、とかわいらしい音をたてて唇が離れていった。
それが寂しくて、離れていく唇を追ってキスをする。
「ん、…………あいたかった」
「…今日は、やけに可愛いな」
「うるせっ……てめぇが悪い」
「ああ、そうだな……っと」
「うわぁぁぁっ?!」
酒瓶を両手に持ったまま、俺を横抱きにして居間へ入っていく。
ガチャガチャと瓶のぶつかる音に、割れないかドキドキしているフリをして、この動機の意味に気付かないフリをした。(きっと土方には気付かれてるだろうけど)
「土方、」
「ん?」
「今日は、いっぱい、可愛がってね」
額に落とされる唇にまた嬉しくなって、幸せで、痛い。
甘い痛みとともに、俺はやっといとしい腕の中に抱かれた――――
end.
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