short

□さくら
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さくら





ザワザワと校庭が騒がしい。

高校生活最後の日を名残惜しいとでもいうように、卒業生たちはそこにたむろしている。

屋上からこの風景を眺めて数分。目当ての男は見つからない。

「……教室でも、一回も目ぇ合わなかったなぁ」

昨日の卒業式前日
彼――土方十四郎に告白された。いつものスカした顔はそのままだったが、耳だけは真っ赤だった。


“好きだ”


その言葉に、どれだけ心臓が跳ねただろう。
自分だって、生徒だからと隠してきた気持ちがあった。
嬉しくないはずがない。
心と身体がしびれる程震えて、彼の前で泣いてしまうかと思った。

だけど、その告白を受け入れられなかった。

生徒、ましてや男同士だ。
彼のこれからを思えば、自分なんかと付き合わないほうがいいに決まってる。

「最後に、顔くらい、見てぇなぁ………」





「誰の?」

「え…………」

「誰の顔が見たいって?」


そこには、彼が立っていた。

恋焦がれていた、愛しい、


「おま、なんでここに……」

「あんたの考えてることなんて、まるわかりなんだよ」

卒業証書を小脇にかかえ、ゆっくりと俺に近づいてくる。

「あんた、俺のこと好きだろ」

「なっ、バカ言ってんじゃねぇよ。誰がこんな餓鬼なんかに……」

「目、泣いた跡」

「!!!!」

「バレバレなんだよ、あんたの気持ちなんか。どうせ俺のためとか思って身引いたんだろ。くだらねぇ」

「くだらねぇってなんだよ!!俺はっ、お前が、俺なんかに現ぬかしてたら、ダメだと、思って……」

だんだんと弱くなる語尾に、自分を情けなく思う。
最後くらい、しっかり土方の顔を見たいのに、視界がぼやけてよく見えない。

「そうやって俺のこと思ってくれるのは嬉しい。けど、俺はあんたが好きだ。それだけじゃ足りねぇんだよ」

腕が回された背中にじんじんと熱を帯びる。自分とそう変わらない身長なのに、土方に包まれている感じがした。

「ばっ!!離せよっ」

「離さねぇよ。……………一生、離したくねぇ」


ああ、もうダメだ。
お前に、囚われる――――





そっからは、あまり思い出したくない。
みっともなく土方の胸で泣いて、涙をぬぐうためとかいって頬にキスされて、挙句の果てに唇にされそうになったからそこでドツいてやった。
調子乗んな、くそガキが。


………でも、やっぱり俺もしたかったから、俺から土方にキスをくれてやった。


卒業祝いはキスと、俺

しょーがねぇからくれてやらぁ!!



end.


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