short
□cry more
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cry more
彼女が亡くなったと聞いて、真っ先にあの男の姿を探した。
隊士たちがすすり泣く中、どこにもあいつの姿はなかった。
やっと見つけたと思ったら、人気のない屋上で静かに涙を流す男が不器用で、目に痛かった。
「……辛ぇ」
バリバリと激辛せんべいを食べながら、誰に聞かせるわけでもない言い訳が聞こえた。
俺もこれをかじれば、あいつの気持ちがわかるんだろうか。
一口かじる。
辛い。
ただただ辛いそのせんべいは彼女が好きだったもので、それをかじりながら涙するあいつが、誰を想っているかなんて明白だった。
「辛ぇ」
口をついて出た言葉は、あいつには聞こえなかったようだ。
それは、あいつの心が彼女でいっぱいであることを示しているようで、あいつにとって彼女は大切な、特別な存在なんだと改めて思い知らされた。
(諦めが悪いな、俺も)
あいつが好きなのは元々彼女で、俺ではない。
俺と付き合ってくれたのは、俺がしつこく迫ったからで、好きになってくれた訳じゃない。
ただあの時、“しょうがねぇな”と言って俺に向けてくれた笑顔を嘘だとは思いたくなかった。
「……おい、いるんだろ」
見つけなくてよかったのに。
俺のことなんか考えず、彼女のことを想っていればいいのに。
「土方も、泣いたりすんだな」
「俺をなんだと思ってんだ……いいから、ちょっとこっち来い」
この世の終わりみたいな、魂の抜けた、情けない顔をして。
俺の知っている土方十四郎はどこにも居なかった。
「な、に………」
「………てめぇだけは、死んでくれるなよ」
今にも消えそうな掠れた声を出して、俺の肩に額を埋める。
ああ、これだけでいい。
こいつが苦しんでるとき、悲しんでるときに、傍にいて涙を隠してやる。
それが、俺だけにできること。
だんだん濡れてくる肩から、土方の彼女への想いが染み込んでくるようで………
苦しくて涙が出た―――
俺の涙</
font>は
誰が拭いてくれる?
end.