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□きみと、
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きみと、
5月5日は俺の誕生日だ。
かといってもう誕生日だなんだと騒ぐ歳ではないし、気を遣って有給にしてくれる近藤さんには悪いが、特に予定があるわけでもない………そう、今までは。
今年は、銀時がいる。
初めてこんなに愛せる相手に出会えて、初めてわかる自分の部分もあったりして、正直戸惑うことも多い。けどそんな戸惑いさえ楽しくて、毎日あいつへの想いが増すばかりだ。
だから誕生日くらい一緒に過ごしたかったが、あいつと約束はしていない。改めて「誕生日だから会いたい」なんて言うのは恥ずかしいし、変なプライドが邪魔をしたのもある。
近藤さんが開いてくれた誕生会も早くにただの宴会になったので、自室に戻った。
携帯を開いて10分ほど。銀時に連絡を取れずにいる。
「……寝てるかもしれねぇし」
意味のない独り言がこぼれる。
「会いたい」と答えは出ているのに、ウダウダと悩むのは自分らしくない。けれど、銀時のことではらしくない自分が出てくる。
これが恋というものなんだろう。
そうやっていると、握っていた携帯が着信を知らせ、暗い部屋に機械音が鳴った。
――プルルル――プルルル
「―――!……もし、もし?」
『ぷっ、何どもってんだよ』
「うるせぇな、…銀時」
相手は銀時だった。
恋焦がれて、けれど連絡出来ずにいた銀時が、普段は掛けてもこない電話をかけてきた。
『誕生日なのに銀さんと会えなくて泣いてるかと思ってよ』
「はぁ!?」
『ひひ、その様子じゃ泣いてねぇな。………でも、』
「…?なんだよ?」
途切れた会話に不思議に思っていると、突然庭先からガサッと音をがして、思わず刀に手をかけたところで固まってしまった。
だってそこには――――
『「俺が土方に会いたくて、来ちゃった」』
片手に携帯を持った銀時が立っていたから。
「おま、どうして……」
「別に、恋人の誕生日に会いに行かねぇのはおかしいかなーって思っただけだよ」
銀時がそっぽを向いて少し不機嫌そうに話している時は、照れていたり恥ずかしい時だ。
顔が赤いのも、その証拠。
こいつのことだから真選組の奴らに気を遣って、行こうかどうか迷って、こんな時間になったんだろう。
「………可愛い奴」
「はぁ!?」
銀時に近づいて強く抱きしめると、こいつ特有の甘くて優しいお日様みたいな匂いがした。
「……………土方、」
「ん?」
「遅くなったけど、誕生日おめでとう」
本当は銀時さえいてくれたらいいなんて、そんなこと恥ずかしくて言えねぇけど、俺に会いに来てくれたという事実が、すごく嬉しいから。
それだけで、"愛されている"と。
そう、感じられるから。
「……ありがとな。俺、すげぇ幸せだ」
この幸せが、いつまでも続くように――――
end.