企画作品の部屋
□2010年ホワイトデー企画・クリフトからの告白
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version リーア
吸って、吸って、吐いて。
ヒッ、ヒッ、フー。
こ、これは何か違うな……。
よし、声ももう震えない。
人人人も三百回は飲んだ。
行けるぞクリフト。男になれ!
ご、ご機嫌うるわしゅう、アリーナ様。
夜遅くに突然お呼び立てして申し訳ありません。
実は今日は折り入って、お話がありまして。
え、昨日の御前試合は素晴らしかったでしょ?
ええ、もう!
熊のような大男を一撃で倒す姫様は、蝶のように舞い蜂のように刺す、まさに現代の女モハメドアリ!
……ではなくて。
あのですね、ええと……その、そう、そんな誰よりもお強い姫様に、実はわたしからプレゼントがあるのです。
きっとお喜び頂けると思うのですが。
ち、ちょっと待って下さいね。あんまり重いから、実は道具袋に入れて背負って来たんですよ。
そう、これです!どうぞお納め下さいませ!
じゃじゃーん!!
はい、「うまのふん」!!!
出来たて新鮮なこの臭いがたまりません………て、あれっ?!
な、な、なんで?!
なによ、これって……いえ、わたしが聞きたいくらいで……どうしてだ?!
わたしはちゃんと、この中に姫様へのプレゼントを入れて、すぐに持っていけるように城門横の茂みに隠しておいたのに!
な、なんですって、それならさっき掃除番が、ゴミと間違えて運んで行ったですって?!
なああーーーー!!!
あれは、あれはこのクリフトのなけなしの貯金をかき集めて買った、世界にただ一つの黄金の爪なのに!
ど、ど、どうしよう、もうなにもない。差し上げられるものは何もない……!
わたしはただ、無敵のお力を誇る姫様に黄金の爪を献上して、さらにその強さに磨きをかけて頂きたかっただけなのです。
そしてお喜び頂けたところで、この胸に秘め続けた積年の想いを伝え……えっ。
どっちかと言えば、黄金の爪より二回攻撃できるキラーピアスの方が好きだ?
あ、そ……そうですか……。
では、では来年こそはきっと、姫様が心よりお喜び頂けるように、このクリフト、最高級のキラーピアスをご用意して見せます!
そんなもん、自分で買うからいいわよ?そ、そんなことおっしゃらずに。
だいたい、今日は何の日か知ってるのかって?
存じ上げていますとも!ホワイトデーでしょう?
だからこそわたしは勇気を出して、今日のよき日に姫様にこの気持ちを伝えたくて。
だからって、うまのふんはないでしょ?も、申し訳ありません!!
そもそもお前は段取りが悪い……はあ、全然ムードがない……ご、ごもっとも、
それになにより……臭い?!
近くにいると臭いからもう帰る?!
ま、待って下さい、姫様!
わたしはずっと、ずっと貴女様のことが……!
えっ。
その鼻が曲がりそうな臭いが消えてからなら、ゆっくり話を聞いてあげてもいいわよ?
お風呂に入ってすっかり綺麗になってから、わたしの部屋へいらっしゃい?
………。
は、は、は、はい!!
い、今すぐ、今すぐに湯あみして参ります!!
ぴかぴかになって戻って参ります!
だから姫様、待っていて下さい!
わたしを待っていて下さい!
愛しい姫様、大好き、大好きだーーー!!
うるさい、夜なんだから静かにしなさい?!
は、はい、どうもすいません……。
姫様、大好きです……ごにょごにょ……。
−FIN−