戴き物のSS

□プレゼント
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*クリスマスの由来は諸説あるが、古代ローマで冬至の日に行われていた「太陽神の誕生祭」や「農耕神への収穫祭」が、イエス・キリストの生誕祭と結びついたといわれる。

プレゼント前編

 クリスマス。太陽が新しく生まれ変わり、新しい年が始まる日。
 子供の頃、難しい顔をした家庭教師から、由緒がなんの、伝統がどうのと言われた気がする。勿論アリーナは、面白くないとぶーたれて城を脱走した。そんなアリーナのそばに、クリフトは何故かいつもいた。
 そして言うのだ。大人の言葉では決してアリーナの胸に届かない。クリフトだけの言葉で。

 お日様のお誕生日です。姫様も、お誕生日はお祝いするでしょう? みんな笑顔で、準備するでしょう? だからお日様のお誕生日、姫様も笑って準備を手伝ってくださいね。

 体よく用事を押し付けられた事に、小さなアリーナは気付かなかった。クリフトが、大人たちに言われてアリーナに用事をさせていることにも。
 10歳にもなる頃には、背後の仕組みに気付いていたけど、それでクリフトと一緒にいられるなら、乗せられてやるのも悪くない。
 クリフトの言うことを聞いて、一国の王女としての顔をしている間、クリフトはアリーナの側に居てくれたし、用がすめば「よくできました」と誉めてくれたのだから。


 冬も深まってきたある夜。焚き火を囲んでクリスマスの風習についてトルネコが話題を振った。商売に利用するのか、たんにクリスマスにかこつけて豪遊しようと持ち掛けるためかはわからない。

「サントハイムでは朝までみんなでご馳走を食べたわ。太陽がきちんと目覚めるように、歌と躍りで応援するの」

「へぇ」

 と相槌を打ちながら、マーニャはクリフトを見る。
 クリフトは苦笑しながら、アリーナの言葉を簡単に補足した。

「ええ。讃美歌を歌ったりね。収穫祭でもありますから、ご馳走が並びます」

「クリフトが言うなら本当だわね」

「ちょっと、どういう意味よ!」

 気の強いアリーナとマーニャがちょっとしたどつきあいを始めるのは、焚き火を囲んだこんな時にはよくある光景なので誰も気にしない。
 自分のところではこんなご馳走を食べるだとか、珍妙なエピソードをそれぞれが披露して話は弾んだ。

「収穫祭、誕生祭という意味合いは同じですが、場所場所で違うものですね」

 一人言のように呟いたのはミネアで、皆が言葉の先を促すようにミネアを見る。気付いたミネアは顔を真っ赤にして慌てた。

「何よ?」

 マーニャを構うのをやめて、今度はミネアに詰め寄る。慌てるミネアを庇ってやるかと思いきや、マーニャもアリーナ同様にやにやとミネアに先を促した。

「えっ、だから、そのっ」

 ミネアがこんな風に真っ赤になって言い淀むときは、大抵男女間の話題である。アリーナだって別に得意じゃない。ただ、いつもお人形のような冷静なミネアが真っ赤になって慌てるのが可愛くて構いたいだけだ。

「もうっ! 姉さんまでっ!」

 ミネアが目を潤ませて姉に抗議件助けを求めるまでが、ミネア弄り。
 マーニャもミネアを苛めるのが好きだが、それ以上にミネアを甘やかすのが好きだ。いつもはぴりっと背筋を伸ばし、だらしのない姉の分までしっかりしている妹が甘えてくれるのは滅多にない。
 マーニャはミネアにウインクをひとつ送ると、アリーナの腕を引いて耳許に唇を寄せた。
 ぼんっと、音がしそうなほど赤くなったのは今度はアリーナの方だ。
 女三人のじゃれあいに関わるまいとしていた男性陣も、話を止めてアリーナを見る。4対の視線にアリーナはたじろぎ、クリフトと視線をあわせてますます頬を紅潮させた。

「姫様? お熱でも…?」

 腰を浮かせてアリーナの額に手を伸ばしたクリフトから、アリーナはそれと解るくらいに素早くその場を飛び下がる。

「姫?」

「あああっと、なんでもないの! わたし! 疲れたみたい。ほら、今日はたくさん歩いたし。もう休むわ」

「お疲れなら、おやすみ前にホイミを…」

「いいの! ミネアに頼むから! ね、ミネア」

 わざとらしい程にクリフトを避け、ミネアの腕をつかんで強引に馬車の幌へと引っ張っていく。
 引っ張られたミネアはアリーナに何事かを囁かれて、訳知り顔に微笑んだ。

「勇者様、明日はアリーナさんを馬車の中で休ませて差し上げても?」

「まあ…、構わないけど」

 追求はしないが納得もしていない。そんな表情で翠髪の少年は頷いた。

「それじゃあ、おやすみなさい。ほら、姉さんも!」

 まだ飲み足りなさそうなミネアを引っ張って、女三人が幌の中へ消える。しばらくきゃあきゃあと騒ぐ声が聞こえたが、それもすぐに静かになった。

「…ん?」

「あ…?」

 ブライ老人が白い眉を片方だけ器用に持ち上げた。翠髪の少年も静かになった幌に難しい視線を送る。クリフトとライアン、トルネコが不思議そうに見守るなか、少年は無遠慮に幌の仕切りを捲り上げた。

「勇者さん!?」

 ご婦人方(わたしのアリーナ姫)になんて無礼を、と憤慨して掴みかかったクリフトの手を、少年はするりとかわして幌の中を見ろと視線をくれた。

「え…」

 幌の中は蛻(もぬけ)の殻。マーニャのルーラでどこかへ行ったのだ。

「あいつら…」

 明日の洞窟探索。ミネアとマーニャは居残り組だ。アリーナを休ませたいというなら、それも構わない。構わないが、それは前戦を空にしていいということではない。
 その晩、唇を噛む少年を宥めるのに大の男三人は頭を悩ませる事になった。
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