戴き物のSS

□宝物
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緋色の絨毯が敷き詰められた部屋。

アリーナは鼻歌交じりにごそごそとベッドの下に潜り込み、
小さな宝箱を取り出すとにっこり笑って

中身を一面にぶちまけた。


途端に彼女を囲むように
半円を描いてばら撒かれて落ちる色とりどりのガラス玉。

真っ白い砂と小さな桜色の貝殻が一つ詰められた小瓶。

磨いて糸を通した木の実のブレスレット。

四つ葉のクローバーの押し花の、栞。

やっぱり小瓶に詰められた一片の純白の羽。

ちょっと変わった形の葉っぱ、紅玉の原石、
キラキラ光るコイン、その他もろもろ。


逆さにした宝箱を2・3回ぶんぶんと振って、
それから中身が残っていないか覗き込んで。

すっかり空になっているのを確認すると
アリーナはごろんとうつ伏せになって頬杖をついた。
そのままの体勢で散らばる小物を一つ手にしては微笑んで、
そぅっと置くとまた別のものに手を伸ばす。


―このガラス玉はあの時の洞窟探検で拾ったもの。
―これはこっそり抜け出して海まで行った時のもの。
―これは森に行った時。途中で大雨が降って大変だったわ。


一見するとただのガラクタ。
だがその一つ一つが
アリーナにとってはなによりの宝物だった。

大好きな外で出会ったキラキラの思い出たち。
でもこれがかけがえのない宝物である本当の理由は………。



「失礼します、姫様」



ノックと共に扉が開けられ、顔を出したのはクリフト。
手招きにちょっぴり苦笑しながら入ってきた彼の手には
ピクニックバスケットがぶら下がっていた。


「待っていたわ、クリフト!今日のお弁当はなぁに?」

「姫様のお好きな木苺のジャムを挟んだサンドイッチと、
 ドライフルーツのスポンジケーキと……
 そうそう、紅茶もほら、水筒にお持ちしました。
 蜂蜜とミルクもご用意してありますのでお好きなほうをどうぞ」

「やった!じゃぁ蜂蜜がいいなぁ」


白くて細い指が小瓶を摘んで軽く揺らすと、
黄金色の液体が揺らめいて小さく光を放った。


「かしこまりました。そろそろ参りましょうか」


甘く響く声を受けてアリーナは急いで散らばる宝物を片付け始めた。
そっと寄り添い屈み込むと
一緒に拾い集めてくれるクリフトからふんわりと白檀が香る。
2人の間に流れる空気が少し暖かくなった気がしてアリーナはくすりと微笑んだ。

ベッドの下に潜り込んで片付けたのを確認したクリフトは
扉に向かおうとして、ふとおかしな気配を感じて振り返り。


「ちょ、姫様……!!!!」


叫んだ声は、彼女が蹴破った岩壁が崩れる音でかき消された。


「ほらクリフト早くーー!!!」

「だからどうしていちいち蹴破るんですか!!??」

「だってこっちの方が早いもの!
 それに外に出るってカンジするじゃない?
 ほら見て、すっごくいいお天気!!」

「いや早いって言ったって……!!!」


ぽっかり空いた大穴の向こうには
まるで切り取ったかのような空の青と木漏れ日にきらめく緑。

眉間に皺を寄せこめかみを押さえるクリフトの手を取って、
アリーナはまだがらがらと
小さな瓦礫が崩れて音を立てている大穴から外へと飛び出した。


今日はどこへ行こう。
海に向かう?森へ?さらにその先、山を越えて遥か彼方へ?


飛び出す自分の3歩後ろには必ず貴方がいる。

どんなに離れても、貴方は必ず私を探し出して追いついて。

そしてまた3歩の距離を保ってついてきてくれる。


だから私はどこまでも行ける。

貴方とならどこまでも行ける。


初めて出会ったあの時から、
貴方と拾い集めたモノも時間も、全てが私の宝物。


貴方が、私の宝物。



「ねぇクリフト!!」

「ハイ、なんでしょう!?」


「だぁいすきーーーーーーっっ!!!!」


走りながら大声で叫び、振り返ったアリーナの目には
転んで地面に張り付いたクリフトと転がったピクニックバスケット。


完全無欠の普段の彼からは想像できないこんな姿も、
知っているのは私だけ。


可笑しくて嬉しくて、笑いながら差し伸べたアリーナの手を
ぐっと掴んで起き上がるなりクリフトは彼女をその腕に抱きとめる。
驚く紅玉の瞳に悪戯っ子のような視線を返して、
蒼玉の瞳をすっと細めて…アリーナの唇に落とした羽のような、キス。

アリーナはとくん、とくんと優しく響く鼓動に身を預けてしがみつく。
自分を包み込むクリフトの腕に力が篭った。

ふと2人同時に前方へと目を向けると、



眼前に広がるのはキラキラと光を放つ広い世界。



貴方とならどこまでも行ける。

だから、どこまでも行こう。

ついてきてね?置いていかないでね?


ずっと一緒に、いてね?


「大好き、クリフト」

「……私もです……アリーナ、様」



繋いだ手にぎゅっと力を込めて微笑みあうと、
2人は一緒に走り出した。


愛なんて良くわからないけど、これだけは確かな事。


貴方の存在が、私の全て。



fin.





しをさん、ありがとうございました!

甘いクリアリのお話を、とリクエストしたところ、このように素敵なお話を書いて下さいました♪(^−^)嬉しいです〜☆

文字の端々から色彩がこぼれてくるような、とても綺麗なお話です!

こちらからはイラストをプレゼントさせて頂いたのですが、そのイラストから、

「貴方となら、どこまでも行ける」というイメージを湧かせて、お書きになったそうです(*^_^*)感激!

大切にしたいと思います!どうもありがとうございました♪

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