戴き物のSS

□トライアル
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神よ、何故我等にこのような試練を与えられるのか。

この試練もまた乗り越えられると仰せなのか。

我等の祖国サントハイムを救う未来など、欠片も見えないというのに。


「クリフト!」

息せき切って私の部屋へ飛び込んで来られたアリーナ様は潤んだ瞳を隠す事無く私の胸に飛び込んで来られた。思わぬ事態に驚いた私は神との大切な対話を中断する事となってしまったが、今はただアリーナ様の様子のみが気懸りだ。

「どうされましたか、姫様?」

我が主君、サントハイムのアリーナ姫様は魔物に奪われた祖国の者達を奪還する為に旅を続けておられる。アリーナ様と共に難を逃れたサントハイムの魔術師ブライ様と私、サントハイムの神官クリフトもまた姫様と共にある事を望み、同行を許されている。

そして現在は、世界に望まれた存在である勇者と出会い、アリーナ様を筆頭とした我等サントハイムの者は勇者と、そして志を同じくする同士と共に世界を巡る旅の最中である。

「クリフト、クリフト…」

姫様はただ私の名を呼ぶばかり。私は姫様を安心させるようにその肩を優しく叩きながら囁く。

「姫様、私の名を呼ばれるばかりでは解りかねます。私は此処にちゃんと居ますよ?」

「うん、でもでも…」

アリーナ様は私を見上げると不安そうな声で呟いた。

「心配なの。クリフトは治らない病気に罹っていると聞いたから、居ても立ってもいられなくなってしまって」

……はい?病気??

「何の事です?私は病気になど罹っておりませんよ」

私は安心させる為に微笑んで見せたが、アリーナ様は信じておられないのか頭を振った。

「だって、マーニャさんが教えてくれたんだもの」

マーニャさん。世界一の歓楽の街モンバーバラ随一の舞姫だ。

彼女が絡むと碌な事が起きない。私は姫様に気付かれぬようにこっそりと溜息を吐いた。

「マーニャさんは何と仰ったのです?」

余計な事を姫様に吹き込んだ事だけは明白だが、事態を収拾する為にも聴かねばならない。

「『クリフトはアリーナには隠しているけど治らない病を抱えている』って」

……『隠しているが、治らない病気』、だと?

私は姫様をまじまじと見下ろす。姫様は居心地悪そうに目を逸らされたが私を抱き締める腕に力を込められた。

「お願いよ、クリフト。私に内緒にしないで頂戴。もうあの時のような思いはしたくないの」

あの時。……これは仰られなくても解る。

私が体調の変化に気付きながらも姫様に伝えず、結果悪化しミントスの街で倒れ死の淵を彷徨った時の事だ。

あれ以来姫様は事の外私の体調を憂慮なさる。ただでさえ父王達の行方も掴めず不安定な姫様にこれ以上の負担を掛けたくない私としては少しでも身体に異変があれば姫様にお伝えするようにしている。

よって、姫様に隠しているような病など無い。
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