戴き物のSS

□相打ちでしょう?
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初めて覚えたのは棒だった。

 教会の教義では武器の使用も、扱う武器の制限も、とくにされてはいなかったけれど、刃のついた武器を選ばなかったのは、単に自分が血を見るのが怖かっただけかもしれない。

 何よりも、自分に求められ、且自身が求めたのは、他を圧倒するための力ではなく、暴徒から弱きものを護るための技だったから、剣ではなく棒を選んだ。

 サントハイムの武闘道場には、棒術の部門がなかったため、槍術の教練に混じって自分の身長ほどもある長い棒を振るったものだ。

 どんなに馬鹿にされようと、奇異の目で見られようと構わなかった。人を傷付ける為だけの武器なら持たない。後になって思えば、弱い自分の言い訳でしかなかったそれも、当時の自分には立派な信念だったのだから。

 一度「こう」と決めたからには、おいそれと言を左右にせぬ。それが男として、幼いもの達を指導する者として正しい姿と教えられてきた。

 だから槍術の門弟にどれほどからかわれても、教導師に勧めを受けても、戦いのスタイルを変えることはなかったのだ。

 それが…―



「馬鹿ね。クリフト。切った傷はすぐに治るけど、砕けた骨が治るのに、ふたつきはかかるわ。その間遊びにもいけないし、体が鈍っちゃうじゃない」

 たった一言。

 それだけで、クリフトは剣術を学び始めた。

 かの君の言葉だから、受け入れたのではない。

 正直、それも多少あるかもしれない。

 けれど何より、その言葉には説得力があった。

 棒で打たれても、軽くであれば痛みと怒りが残るだけで戦意を挫くことは出来ないことが多い。強く叩けば骨が砕け、その治療には長い時間を要する。場合に因っては後遺症をも残すことになる。

 対して剣で切り付ければ、解りやすく怪我をする。人間は、本能的に流血を恐れる。少し押さえて安静にしておけば、一日で塞がるような傷でさえ、血が出ればたちどころに戦意を喪失するものが大半だ。例え手足を切り落としたとしても、切断面が綺麗なら、すぐに繋げて回復呪文を施せばまたくっつく。

 見た目は派手で、一見残酷そうに見えるが、実は打撃武器より余程優しい。更にだからこそ剣はわかりやすく、抑止力としても申し分ない。

「さすがはアリーナ姫さま。優れた洞察力をお持ちです」
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