たんぺん

□簡単なことだ、笑うといい
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土佐からの長い道程に耐え、漸く本陣と合流出来た夜。有り難くも桂小太郎と名乗った男は部隊の疲れを察して宴を開いてくれた。


この桂というのは、見た目は女子のような長い黒髪を持つ優男なのだが、口調はえらく真面目で頭も良く、医術も学んだことがあるという戦場には勿体ない男だった。しかし、天は人によっては二物を与えるようで、剣の腕も人並み以上で"狂乱の貴公子"の異名は天人からも恐れられている。

大人びた雰囲気に妙な違和感を感じて、齢を聞けば自分より下で驚いた。二十を越えたばかりだというのに本陣を率いている実績は感服してしまう。



「若いのに凄いのぅ」
「坂本殿も二十三の若さで土佐陣の首領とは素晴らしいではないですか」
「アッハッハッ、敬語はいらんき」
「判った。…それにしても坂本は宴に交じらないのか?」
「わしは挨拶に回ろうと思っての。みんなは疲れちょるき宴を楽しませてやりたいんじゃ」
「そうか…なら、高杉に会っておいた方がいいな。本陣の作戦を練っているのは俺と奴だ」



案内すると桂に言われて宴から抜ければ一番奥の部屋が高杉の部屋らしく、声を掛けて入っていった桂に次いで入ることにした。



「今日から合流した土佐陣の首領の坂本だ」
「坂本辰馬ちや。よろしゅう」
「あぁ」



高杉晋助と言う男は目付きが鋭く、野生の獣のように殺気を巧い具合に空気に溶け込ませて程よい緊張感を周りに与えていた。"地獄の狂犬"の二つ名は自身でも満足している様子で、口角を僅かに持ち上げ笑う様子は客を見定める花魁のようだった。高杉も桂と同じで二物を与えられているのか、策士としての才もあるようだ。



「おんしも敬語はいらんき」
「誰が使うかよ、モジャモジャ」
「モジャ!?それは聞き捨てならんき、止めてくれんかのぅ」



しかし、会話を交わせれば乱暴だが言葉の端が柔らかく馴染みやすい男だった。


「ヅラ、明日の作戦だが」
「ヅラじゃない、桂だ!!」
「おんし、ヅラじゃったか!わしは気付かんかったき、アデランスは凄いのぉ」
「だからヅラじゃない、桂だ!!」



直ぐに馴染める己の気質からか二人と仲良くなるのに時間は掛からなかった。





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