たんぺん

□彼の背を見つめ
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沖田が昼間の市中見回りを毎度のごとくサボり、歌舞伎町近くの団子屋を覗けば銀色を見つけた。



「だぁんな!」
「おー…総一郎君じゃねぇか、またサボり?」
「総悟でさァ。えぇ、見回りは面倒なんでィ…ここは奢るんで相席失礼しますぜ」
「マヂでか、ありがとうね総司君」
「旦那、総悟でさァ。史実の名前になってます」



普段、己の名前が間違って呼ばれれば怒るのに自分は平気で間違えるし、沖田の話など右から左に受け流しながら、銀時は店の売り子に注文をしている。その様子に沖田は呆れたような表情をしてから、団子を口に加えた。




「で、今日はなんで浮かない顔してるんだ?」
「……なんのことですかねィ」
「言いたくないなら別にいいけどさぁ…よかったら団子の代わりに話し聞くけど?」



運ばれてきた団子の串を振りながらニヒルに笑う銀時に、沖田は顔を俯けてからため息を吐いた。



「旦那、組織っていうのは上手く回りませんねィ…」
「まぁ、色んな種類の人間がいるからね。……今回は何、土方くんがまたトッシーになった?」
「…それなら弄れるし楽しかったんですけどねィ」




落ち着かない様子で足を組み替える沖田に銀時は片眉を持ち上げて串を皿に戻した。



「沖田君の隊の奴の裏切り?」
「いえ……密偵で土方コノヤローが珍しく山崎に次いで仕事を回していた奴なんでさァ」
「密偵ね……情報を結構吸われちまったのか」
「隊長格にしか告げられていない情報まで敵さんに筒抜けですぜ」



以前の伊東の巻き起こした動乱とは違い、被害が拡大する前に捕まえることは出来た。だが、罪状を読み上げる近藤の後ろで隊士全員が裏切り者を憎悪の籠もった目で睨み付けていた。




「あの山崎ですら刀から手を離さず、睨み付けていやした」
「そう恨まれるほどに隊士を殺したのか、そいつは」
「伊東の時と比べりゃマシでしたよ」




ならば何故、と銀時は開き掛けた口を閉じて湯呑みを手に取った。




「土方くんを裏切ったから…か?」
「えぇ。俺は隊士達の気持ちに同意なんて思っていやせんけどねィ……土方コノヤローは奴を切腹させる時に介錯を俺に頼みやがったんでさァ」



真選組随一の剣の使い手と名高い沖田。その沖田に介錯を任せた土方の命令は隊士全員が歯をキツく縛ったのは、土方の優しい心を嫌というほどに表していたからだ。




「土方さん本人は騙されて悔しくて情けないはずなんでさァ…なのに、土方コノヤローは奴を楽に死なせるために俺に頼んだんでィ」



介錯で血塗れになった沖田の頭を撫でてから土方は隊士達に仕事に戻るように告げた。そして自分自身も市中見回りに行くといって頭と胴体の離れた奴を見もせずに出ていった。




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