りくえすと
□ずっと見てたから、知ってるんだ
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『大丈夫だ。俺は平気だから』
それが虎白のガキの頃の口癖だった。
虎白は、銀髪紅目の日本人離れした見た目をしているせいで周りから随分と暴言を吐かれてきた。
銀髪でいったら俺も同じだというのに、理不尽な偏見の嵐は常に虎白にしか向かなかった。
「虎白のこと…お前だけは嫌いにならないで…」
一度だけ、ガキの頃だが、男鹿が泣きながら俺に告げたことがあった。
後で美咲さんに聞いた所、その日は初めて男鹿と虎白の二人だけでお使いをしたらしい。恐らく、その時に親の目を気にして告げられなかった近所の大人が虎白に酷いことを言ったのだろう。
「なるわけねぇだろ。虎白は俺にとっても兄貴みたいなもんだ。大好きだよ」
今思えば、あの男鹿が大泣きしたのを、その日以来見たことがない。
でも、男鹿の涙は凄く優しくて、ついには俺も一緒に泣き出し、虎白が男鹿を迎えにくるなり、困ったように笑って慰めてくれたのを覚えている。
その日から男鹿は虎白にベッタリとくっつき、離れるのを嫌がった。
『貴之、理由知ってるか?』
「さぁ?甘えたい年頃なんじゃねぇの」
『小2の言う言葉じゃねぇよ』
虎白は離れたがらない男鹿を不思議に思えど、突き放したことはなかった。
今ではアバレオーガとして周りに傍若無人な暴れ者と認識されているが、男鹿は案外優しい奴なのだ。だから、いくら殴られども俺はアイツを心から嫌いになることはない。
『辰巳、貴之、俺のせいでお前らまで悪く言われるのは我慢ならねぇ』
男鹿と同様に、虎白も優しい奴だ。普段はちゃらんぽらんでだらしがないくせに、自分以外の人間が困っていたりすると必死で駆け付けて、そいつを助けようとする。
自分より他人を大切にするのが、唯一嫌いな虎白の短所。
俺や男鹿は、虎白が暴言を吐かれるたびに相手を睨み付けていたが、当の本人は何食わぬ顔で笑うのだ。
『大丈夫だ。俺は平気だから』
嘘だ。
平気でいられるわけがないのに…なんで本当のことを言ってくれないんだろうか。
「虎白はね、怖いの。誰かを恨んだ時に、自分の魂が壊れるんじゃないかって怖いのよ。アイツは誰よりも優しくて、私よりも強いけど…たかちんよりも弱いのよ」
男鹿と二人で美咲さんに相談したら、こう返された。
強いけど、俺より弱い。
その言葉の意味はガキではあったが、なんとなく理解出来た。
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