拍手内連載小説[泰衡×望美]
.:+・結婚☆狂想曲 其の1・゜:+。*
(泰衡視点)
桜の花も散り始めた春の終わり。
高館に響き渡る、野太い豪快な笑い声。
それに続いて、少し遠慮がちな、少女の笑い声。
「……ふぅ」
どこか諦めにも似たため息を吐き、部下である銀を連れ、その声のもとである部屋へと足を踏み入れる。
「失礼す……る…」
否、踏み入れようとして、その場の光景に、思わず立ち止まる。
「……何をされているんだ、貴方方は……」
「おお!良いところに来た!泰衡!銀!お前達はどれが良いと思う?」
目尻を下げ、満面の笑みの御館が、大声で訊ねてくる。
その横には、困惑気味の表情をした、けれど笑みを絶やさない少女。
そして、そんな二人の周りに広げられた、煌びやかな反物の数々。
「この有り様は、一体……」
あまり聞きたくはないが、一応訊いてみる。
「神子殿に着物を拵えようと思ってな!お前はどの布が良いと思う?儂はこの赤い布が良いと思うんだが…」
「そうでございますね。しかし、そちらの紅もよろしいですが、こちらの淡い色のものも神子様にはお似合いかと思います」
「おお!そちらも確かに捨てがたいな!」
「銀。貴様も何、話に加わろうとしている」
「失礼いたしました」
反物に手をかけようとしている銀を制し、御館に向き直る。
「だいたい、何故、今着物など…」
「いや、何、婚儀の際に着る着物をな、作らせようと思ったのだ」
「………は?」
婚儀?一体、誰と誰の婚儀だというのか。
「………まさかとは思うが、父上、この私に神子殿のことを母と呼べと仰るのではないでしょうな?」
「…はっはっはっ!!お前もなかなか面白い冗談を言うようになったのう!!」
唾を飛ばしながら、これまた豪快に大笑する御館。
「…冗談はさて置き」
暫くして落ち着いたのか、突然真顔に戻る。
「お前と神子殿のに決まっておろう!」
「なっ……」
「じゃから、婚儀」
「……………」
あまりに突拍子もない台詞に言葉を失う。
穏やかな風に、桜はひらひらと宙を舞う。
俺は、眩暈を起こし、倒れそうになるのをどうにか堪え、
何も見なかった。何も聞かなかった。
そう頭に言い聞かせ、その場を立ち去ったのだった。
其の2に続く