相互コラボ記念小説

□夏休み、どこ行く?
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『うっわぁ〜、暑いですねっ。』


駿一「ああ、確かに蒸すな。」


大きな荷物は昨日のうちにお宿の方へと送る手配が済まされていて、私の手には旅行だと言うのに小さなバッグがあるだけという身軽な状態で京都の地に足を下ろした。

思っていた以上に暑くって、風景が熱で揺らめいている様な気さえしてくる程。

コンセプトが修学旅行だとは言え、制服着用にしてしまうと執事服姿の4人と古都を巡る事になってしまうので、私服にして貰った。

私の目の前で暑そうに眉を顰めた斯波先輩が、パリッとした白いポロシャツに黒のパンツというスタイルで、ガイドブックの地図を睨んでいる。

現在の時刻は午前11時。

朝8時半の新幹線に乗って、つい先ほど到着したばかりだ。


恭耶「それにしてもさ、名前。おやつ1日500円は無いだろ?何が買えるってんだよ。」


新幹線の中で2500円分相当の有名店の焼き菓子を食べきってしまった恭耶くんが呟く。

深いインディゴのジーンズに比翼のスタンドカラーのジップアップのシャツを羽織った姿で私が作った“修学旅行のしおり”を真剣に見つめている。


恭耶「バナナはおやつに含みませんって言われてもさ、バナナなんか持って来れねぇじゃん。」


優介「もう、恭ちゃんどうせお店で色々食べるでしょ?文句言わないのっ!!」


ラガーシャツにハーフパンツ、足元はスニーカーといった可愛らしい出で立ちで、優介くんはにっこりと私に笑い掛けた。


貴臣「そろそろ参りましょう、車が到着致しました。」


白いシャツに上品なループタイを揺らしながら貴臣さんが先頭を行く。

これほどまでにショボいは思いもしなかった、古いビルの上にそびえたつ京都タワーの前で黒塗りのハイヤーへと乗り込んだ。


全員を乗せたハイヤーは静かに古都の街へと走り出す。


『わ・・・大きなお寺。』


貴臣「東本願寺ですね。此方は烏丸通ですが、西側にある堀川通沿いに西本願寺がございますよ。」


『本願寺・・・って同じお寺って事ですか?』


駿一「元は同じだが、宗派が違う。西が浄土真宗本願寺派、東が真宗大谷派だ。」


『ほ、ほへぇ・・・何だかややこしいですね?』


車はそのまま繁華街を突っ切って、大きな橋を渡り、T字路に差し掛かった所で止まった。


恭耶「へへっ、まずは・・・じゃーんっ!八坂神社でっす!!」


優介「・・・恭ちゃん?まさか名前が一緒だからとかそんな理由で選んだんじゃないよね?」


恭耶「ちっちっち。一応俺だって修学旅行らしいとこ押さえとこうと思って色々調べて決めたんだっつーの。」


駿一「それならいいが、お前の事だから小学生みたいに“ここ俺ん家の神社だから!”とか言い出すのでは無いかと思ったぞ。」


恭耶「んー、流石の俺でもそこまでバカな事はしないっすよ。祇園祭はここの祭礼だし、八坂さんから一寧坂通って二年坂、産寧坂、で清水さんってのが修学旅行のモデルコースだって言うしさ。」


『んじゃ、早速お参りしなきゃね!』


石段を上って行こうとしたところで、恭耶くんに声を掛けられる。


恭耶「ちょ、待てって!八坂神社の石段っつったら此処で集合写真が鉄則だから!!」


恭耶くんのたっての希望で道行く人を捕まえて撮影をお願いした。

石段の中央で、2段に分かれて立つ。

下の段に恭耶くん・私・優介くん。

上の段に斯波先輩・貴臣さん。

修学旅行生が多いからなのか、この辺りの人は写真の撮影を頼まれる事に慣れているらしく、全員の持っていたデジカメや携帯までも「撮ったるから遠慮せんと出しぃな」と快く声を掛けて下さり、私たちは初めての集合写真をニコニコの笑顔で撮影した。

八坂神社を参拝して、裏手にある円山公園へと抜ける。

そこに建っているルネッサンス様式の洋館で昼食を頂いた。

普段の“館”にいる様な気分で皆の表情が一様に執事のそれになっている事にクスクスと笑ってしまいながら、周囲の羨望を受けつつ全員のエスコートを堪能する。

執事さん達にはやっぱり洋館が良く似合っていた。

食事の後は占いのお店が目につく一寧坂を通過して二年坂へ。

二年坂へ足を踏み入れた途端、悪戯っぽく目を輝かせた恭耶くんが私に言った。


恭耶「なぁ、名前知ってるか?二年坂でコケたら二年以内に死ぬって言われてんだぜ?」


『えっ!ちょっと、今そんな事言わないでよ!そうでなくても石段やら坂やらでコケそうなのに緊張したら余計に危なくなっちゃうよ!!』


そんな会話をした途端、私の手は両側からがっちりと掴まれてしまった。


『・・・えっ?』


見ると両サイドには厳しい表情で眉を顰めた先輩と、心配そうに眉を下げながら唇を固く結んだ貴臣さんの姿が。


駿一「お前は絶対に転ぶだろうが。」


貴臣「名前様にそのような謂れのある場所で転ばせる訳には参りません。」


2人は真剣な表情で言っている。

そんな先輩達を見て優介くんがクスクスと笑った。


優介「大丈夫ですよ、お2人とも。この言い伝えは転びやすいから気を付けて歩くようにと注意を呼びかける意味合いで言われている事ですから。ほら、趣のあるお店が軒を連ねていますからよそ見をしながら歩くと怪我をしてしまいますし。」


『あはは、でも本当に転びそうな場所なので、手を引いて頂けるのは助かりますよ?』


私が笑い掛けると、2人もフッと表情を和らげた。

冗談めかして嗾けた首謀者が、悔しそうに呟く。


恭耶「くっそー、言うより先に名前と手ぇ繋いどけばよかったぜ。」


優介「あ、大丈夫だよ恭ちゃん。次の産寧坂にも同じような言い伝えがあるから、産寧坂は僕と恭ちゃんで繋いで差し上げればいいじゃない。」


恭耶「おっ、優介ナイス!!」


途中、竹久夢二寓居跡で恭耶くんと「山」「川」の暗号ごっこをし、先輩に冷たい目で睨まれる。

落ち着いた風情だった二年坂を上り切ると石畳の道に出た。

八坂の塔をバックに写真を撮りつつ先へ向かう。

この石畳の道の終わりから、また急な坂道が始まった。

ニヤニヤと笑う恭耶くんとニコニコ笑う優介くんが恭しく手を差し出して待っている。


優介「名前様、産寧坂ですからお手をどうぞ!」


笑いながら2人の手を取って急な石段の坂を上り始めた。


貴臣「子安観音への道中、お産が寧らかでありますようにとの願いで上った坂だと聞きましたが・・・身重の体でこの様な急な坂を上って大丈夫なのでしょうか・・・?」


納得がいかないといった表情で首を傾げて呟く貴臣さんに、皆で頷いた。

ここは・・・危なすぎるよ。

坂を上り切った所にあった七味専門店を見て、先輩が足を向ける。


『えっ?先輩、七味なんて買うんですか?何か爺むさい・・・』


駿一「馬鹿者。ここの七味は日本三大七味の2番目なのだぞ?創業350年の老舗だ。買わずに帰ってどうする。」


その後先輩は「ここの七味には青海苔・白胡麻・紫蘇が入っていて出汁を重んじる関西らしく風味が豊かで辛さが控えめだ」とか何とか薀蓄をたれながら、なかなかに大量の七味を実家へと送りつけていた。

うーん、先輩ったら渋好み。

そして、私達は大汗をかきながら清水寺へ到着し(私は息も切らせていた)、広い清水の舞台で写真を撮った。


駿一「ほら、恭耶。清水の舞台から飛び降りてみろ。お前なら大丈夫だ。」


恭耶「ちょ、斯波さん背中押すの止めましょうよ、ね?いい年して何するんすか!おい、優介っ助けろって!」


優介「あ、僕もちょっと飛んでるとこ見てみたいから斯波さんに加勢しよっと。」


恭耶「わわわっ!優介っバカお前っ!?ちょ、貴さん笑って見てないで何とかして下さい!あ、名前お嬢様っお願い!この人らに命令してくれ!!」


『あははっ、仕方ないなぁ。斯波、上杉、お止めなさい!これでいい?恭耶くん1つ貸しね?』


修学旅行は馬鹿な程にはしゃいだもん勝ちだ。

精一杯楽しみながら、すぐ裏手の地主神社にも寄って貰う。

何と言ってもここは縁結びで有名な神社。

ここまで来て行かないなんて女の子は居ないと言っても過言ではない。

微妙な表情で私を見つめる4人を引っ張って、私は願いを込めて銅鑼を3回打ち鳴らす。

“4人とずっといい関係でいられますように・・・”

何を勘違いしているのか、恋占いの石は、皆の妨害でちゃんと辿り着く事が出来なかったけど、そのうち良縁が私の元へやって来ますようにと願いを込めて引いた恋みくじには、「近くに良縁あり」と書いてあって、ひそかにほくそ笑む。

それを見た4人がまた小競り合いを始めて、私は肩を竦めながらその隙に全員分の星座守を購入しておいた。



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