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□風邪っぴき(流川)
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風邪を引いてしまった。
と言ってもテスト期間中なので、部活に支障はないけれど、とにかく鼻水が洪水だ。クソとどめねえ。
「お、流川〜、よう!」
「……ぅ……ス」
「ぶはは何お前風邪引いたの?」
「……うっせー、す、」
ゲホゲホと咳込むと、宮城先輩はいきなり吹き出して笑っている。無駄に元気そうな宮城先輩は無駄に体に悪そうな鮮やかな黄緑色のチュッパチャップスを舐めていた。ひとしきりゲラゲラと笑ったあと、「しゃーねーな」と言いながらポケットの中を漁って、イチゴ味のチュッパチャップスを取り出した。
「優しい優しい先輩から」
そう言って宮城先輩は無理やり俺に赤色の包みを握らせて帰ってった。包みを剥いて、これまた体に悪そうな赤のチュッパチャップスを口に入れながら五限の移動教室で三年の教室の前を通ると、いきなり戸がガラリと開いた。
「ようようよう」
「……………」
「ちょ、おま、無視すんなよ」
「………なんすか」
「なんだお前声…ウケるな」
「行っていいすか」
「待て待て待て」
「なんすか」
「風邪か」
「他に何があるんすか」
「その…アレだ、『あなたの風邪はどこから?』」
三井先輩が気持ち悪い裏声を出したので俺は静かに戸を閉めた。付き合ってられない。
イガイガの喉には甘ったるいイチゴ味が広がっていて、その赤を見るとどこかのどあほうを思い出した。後ろでは三井先輩が何か怒鳴っていたが知らないふりをした。ナントカは風邪をひかないと云うやつだ。
気のせいか咳が楽になった気がした。
ああ、早くバスケがしたい。