BOOK

□雪村千鶴の憂鬱
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時間はさきのぼり24時間前、
千鶴が友達のお千ちゃんこと千姫と食堂でいつも通り焼肉定食を食べていると

「そんなに食べていると豚になるぞ」

いつのまに後ろに立っていたのか風間先輩の声が聞こえた。

「い!?いきなり後ろに立たないでくださいっ、それにぶ、ぶ豚って…」

学校帰りにお千ちゃんとクレープやらパフェやらを食べ歩いているせいで最近ちょっと太ったかもと思っていた千鶴には痛い一言だったので、言い返せない。

「ふん、気にするな。お前が太っていようが痩せていようが俺はお前を愛している」
「そ、そんな心配してませんっ!」

しどろもどろになりながらも必死に風間先輩に言い返していると向かいの席がガタッと動く音がした。

「ちょっと、風間っわたしの千鶴ちゃんにちょっかいださないでくれる?」

お千ちゃんが助け船をだしてくれたことに感謝しつつ…、「わたしの千鶴ちゃん」という言葉が少し引っ掛かったがそこはあえて突っ込まないでおく。

「千鶴はお前のものではない。我が妻だ。そんなことも分からぬとは哀れだな」
「千鶴ちゃんにまったく相手にされてないのに妻だなんだと勘違いしてるあんたに哀れとか言われたくないわよ!」
「なんだと…、あれは千鶴が照れているだけだ ああは言っているが俺に惚れているのは見ればわかる、ふっ、貴様には分からぬようだがな」
「分かるわけないでしょ!あんたの思い込みなんだからね!」

「貴様は……っ………〜」
「あんたね、……だから……っ〜」
ふたりはこちらに意識を向けていないようだし言い争いをしてるいまのうちにこの場を去ろうと決意した千鶴はふたりに(得に風間)気づかれないように 席を立ち、中腰のままゆっくり席から離れようとするが

「どこにいく」

いつのまにか風間先輩が目の前に立って千鶴を見下ろしていた。

「……ち、ちょっとトイレに」

ささやかな言い訳をいってみる。お千ちゃんとの言い争いは引き分けに終わったらしくお千ちゃんが風間先輩に捨て台詞を吐きながら食堂からでていくのが見えた。お千ちゃん…おいていかないで。

「嘘をつけ。トイレにいくのに何故コソコソする必要がある」

言い返せず肩を落としていると続けざまに不機嫌そうな顔をしながら風間先輩の口が開く。

「おまえ…、中間は悪かっただろう」
ギクッ
「なぜ知ってるんですか」
「妻のことを夫が把握しているのは当然だ」

この意味不明な回答を予想できたが聞かずにはいられなかった自分は忍耐力がたりないのだろうか。

「おい、聞いているのか」

自分の忍耐力について考えていると風間先輩がわたしに話し掛けていたらしい、更に不機嫌なオーラを放ちながらわたしを見下ろしている。

「は、はい…」

「この調子だと期末の勉強もはかどっていないのだろう」

ギクッ
たしかに期末が近いというのに放課後はお千ちゃんと遊んでばっかりだけども、

「か、風間先輩には関係ないと思いま…す」

たしかにわたしの成績は悪いけれども風間先輩にとやかく言われる筋合いはない…はずだ。

「関係あるにきまってるだろう。お前は俺の妻になり、俺と共に一族の頂点に立つ女になるのだ。俺と同等の教養を身につけておかなければなるまい」

……………………は?え、いまなんて

「そういうことだ、明日はお前の家で俺がじきじきに勉強を教えてやろう、詳細はメールで知らせる」
「え…ちょ、せんぱ」

え?結婚したあとのことまでこの人考えちゃってるの、とか まず結婚することをわたしは承諾していないはずなんだけれど、ていうか付き合ってもないですよね、とか 一族って風間先輩の実家はいったいどうなっているのだろう、とか ツッコミたいところがありすぎてフリーズしてしまった間に明日の予定まで立てられてしまったわたしは何を言えばいいのだろう。

「どうした?嬉しすぎて言葉もでないか、」

「……と、突然すぎですっ、あ、明日とか無理ですからね!」

風間先輩のいつもの思い込みを否定するのを忘れるぐらい動揺してしまっていた。

「あさってならば良いんだな」

「そ、そういう問題じゃなくて…」
か、風間先輩は分かってないんだろうか…家って、家に入れるなんて…っ何度も言うようだけど…、私たちは付き合ってないんだよね?違うよね?

「まったく面倒な女だな、じゃあ明日で良いだろう」

「どうしてそうなるんですか!!」

「お前の頭が悪いからではないか」
「だから、そうじゃなくて…」

なんだかんだと先輩と言い争いしていると突然、校内放送の音が鳴り響いた。

ピーンポーンパーンポーン

『…おい!風間!お前仕事ほうり出して何してるんだ!昼までに生徒会の書類サインしとけって言ってあっただろうが!この放送聞いたらいますぐ職員室こい!…ブチッ…』

え…いまの土方先…生……?

「チッ、しつこい、夫婦の時間を邪魔するとは無粋なやつだな」
風間先輩が舌打ちして何やら勘違いな台詞をいいつつ食堂からでていこうとしている。あ、ちゃんと仕事はしに行くんですね。
その様子をボー然と千鶴が眺めていると食堂をでたところで風間が千鶴に振り向いて一言。

「明日は楽しみにしているぞ」

ニヤリとした笑みを浮かべる風間を見て千鶴は背筋が凍ったのだった。
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