ショートショート集
□紅葉
1ページ/4ページ
彼はだだ、青白い空に揺れる木々の葉をぼんやりと見上げていた。
呆気ないほど、心は静かだった。
つい一時間前だったか。
彼が女に強烈な平手を喰らったのは。
お決まりの別れ。
彼はもう、それに飽きていた。
人は出会えば別れる。
その繰り返し。
だから結局、人間は生まれてから死ぬまで一生、一人なのだ。
そう思うようになってから、人を本気で見なくなった。
容姿が美しかろうが醜かろうが、関係ない。
女と言う肉であれば、何でも良い。
五月蝿ければ、捨てればよい。
世の中に吐いて捨てるほど女は居る。
だから笑ってやったのだ。
彼が女に、こう訊かれた時だ。
『誰かを愛したことがあるの?』、と。
「あぁ、愛された記憶なら」
平手が飛んできたのはその直後。
そうして彼は、片隅でささやかに、あの女は自分に愛されたかったのだと知る。
彼女の長い髪も、華奢な身体も、猫のような気まぐれな瞳も、嫌いじゃなかった。
だけど結局、いつかは終りが来る。