ショートショート集

□紅葉
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 彼はだだ、青白い空に揺れる木々の葉をぼんやりと見上げていた。

 呆気ないほど、心は静かだった。

 つい一時間前だったか。
 彼が女に強烈な平手を喰らったのは。

 お決まりの別れ。
 彼はもう、それに飽きていた。
 
 人は出会えば別れる。
 その繰り返し。

 だから結局、人間は生まれてから死ぬまで一生、一人なのだ。
 そう思うようになってから、人を本気で見なくなった。
 容姿が美しかろうが醜かろうが、関係ない。
 女と言う肉であれば、何でも良い。

 五月蝿ければ、捨てればよい。
 世の中に吐いて捨てるほど女は居る。

 だから笑ってやったのだ。
 彼が女に、こう訊かれた時だ。

『誰かを愛したことがあるの?』、と。

「あぁ、愛された記憶なら」

 平手が飛んできたのはその直後。
 そうして彼は、片隅でささやかに、あの女は自分に愛されたかったのだと知る。

 彼女の長い髪も、華奢な身体も、猫のような気まぐれな瞳も、嫌いじゃなかった。

 だけど結局、いつかは終りが来る。
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