ショートショート集
□アイデンティティ
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意味が分からない文章を書き続けて数日。
一つ書けば、その途中でまた生まれてしまって適当になってしまう。
決して長いものを書いている訳じゃない。
ただ、僕を包む僕の世界や感覚が流動しすぎて、彼方に追いやられてしまう言葉があるんだ。
それは有難くも、迷惑な話だ。
あぁ、僕は病人でね。
この病室はおろか、ベッドからもろくに離れられないのさ。
だから僕の楽しみでもあるんだ、文字を綴ることは。
まぁ、こんな僕でも趣味くらいはあるって事だ。
尤も、最近はペンを持つ手が震えて困る。
寒いわけじゃないのにガクガクと震える手は、暖めると何故か落ち着くのだけれど、白雪が舞い始めたこの季節は室内が暖かくても厄介でね。
古傷にまで外の寒さが染み入るようで、お陰で良く手が止まるよ。
死に損ないなんですか、って?
いやいや、僕は元気だよ。
確かに病人とは言ったけれど、身体は全く重い病ではないんだ。
期待に沿えず、残念だったね。
僕の病気は珍しいらしい。
自分でも分かるよ。落ち着かないんだ。
見るもの全て、記憶したもの全て、一欠片も漏らさずに覚えている。
便利なように思うだろう?
だけれど僕は「病気」だと言ったろう。
情報量のあまりの多さに、文字通り頭がパンクしてしまうんだ。
パンクすると色々と制御できなくて、感情が迸ってしまってね。
僕の世話をしてくれているアンディなんかは、いつそうなるかといつもビクビクしているよ。
そうやって可愛いアンディを怯えさせるのは可哀想だから、僕は僕なりに考えたんだ。
脳内の許容量を超えたら、とりあえず外部メモリに保存してみればいいんじゃないかって。
まぁ確かに脳内に記憶するようには上手くいかないけれど、感情は整理されるから悪くない。