ショートショート集
□美しい人
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それと隔絶する扉にたどり着いたとき、僕の胸は高鳴った。
救われるかも知れない希望。
世界と同じかもしれない絶望。
不安と期待は入り乱れる。
いっそ、このまま扉を開けずに朽ちていったほうが楽なのかもしれない。
扉の中までこんな世界だったなら、僕は本当に行き場をなくしてしまう。
それでも僕は、扉に手をかけ、振り切るように開け放った。
「おかえりなさい」
僕は帰らなければならなかった。
生きるため?
いや、ちがう。
守るため?
いや、そんな高尚な心など持っていない。
ただ、会いたい人にもう一度会いたかっただけだ。
ああ、僕は美しいものなんて本当に嫌いだ。
「ただいま」
でも、僕を迎えた愛する人は、世界中のなによりも美しく見えた。