私が異世界で死なないための10の法則

□第1法則
2ページ/3ページ



焙煎されて間もないコーヒー豆の匂い。その何とも言えない香りに酔いながら奥にいるであろう店主を呼ぶ。

「ミズ・パーソンー、こんにちはー銀子ですー」
「やあ、久しぶりだねギンコ。元気だったかい?」

奥からやってきた金髪の女性はやけに嬉しそうにショーケースの上に肘を立て顎をのせる。

「ミズ、嬉しそうですね?」
「今日の豆は一等いいやつだからね、ギンコが来てくれてわたしも豆も嬉しいのさ」
「ミズみたいな美人にそんなこと言われると照れますね〜」
「あはは、誉めても何も出ないし、女に美人と言われてもねぇ」
「お世辞じゃありませんけどね」
「そうかい?じゃあありがたくうけとっておこうじゃないか」

そう言って豪快に笑い、ミズは煙管を取りだし、燻らせ始めた。

「決まったら呼びな。わたしゃ奥で仕事してるから。ゆっくり選びなね、本当に今日のは良いやつばっかりなんだ」
「ミズに言われなくてもじっくり選ばして頂きます」
「あはは、そうかいそうかい。じゃあごゆっくり」

いつものような軽い掛け合いに満足したのかミズは先程みたいな豪快な笑い声を響かせながらまた奥へと戻っていった。


∞∞∞



ミズ・パーソンはイギリスの郊外でコーヒー豆専門店を営む女主人だ。親しくさせてもらってはいるがミズには謎が多い。乱雑な口調に古風な言い回し、艶やかで若々しい外見と反した老成した雰囲気―――しかし、良い人にはかわりない。今回も無理を言って稀少な豆を取り寄せてもらったのだ。

そんなミズが腕によりをかけて?集めた豆を心踊る気分で選んでいく。一通り吟味し買う豆を決めたところでミズを呼ぶ。


「キリマン10sとブルーマウンテンとコナを5sずつ。あとはマタリを3sで」
「グアラマラはいいのかい?ギンコの好きな豆じゃないか、買っておいきよギンコのために仕入れておいたんだよ」
「…じゃあ個人用に少し」


少し思案した私に何かを感じ取ったミズがニヤリと笑う。しかしそれすらも艶やかに見えるのだから美人はすごい。というか羨ましい。


「ああ、なるほど。その様子じゃぁ、"例の常連"がグアラマラを嫌ってると見たね」
「えぇ、私は好きなんですけど、顧客に好まれないのを置いていても豆が勿体ないですしね」
「ハハハっ、そりゃ仕方ないね!!けど"例の常連"とやらを一度此所に連れてきな、わたしがグアラマラの華やかな風味を教え込んでやるからさ」




∞∞∞





「はい、これが商品さ」

そう言って台車に乗せられた豆袋を持ってきたミズに代金を支払う。きっかり払ったつもりだったが、お釣を手のひらに乗せられる。

「グアラマラはおまけだよ、わたしの奢りさ」
「あ、ありがとう、ミズ!!」
「なぁに、まだ生豆だからギンコにやるだけさ。アンタなら生豆でも上手く使いこなせるだろうしね」

朗らかに笑うミズに頭が上がらない。そう言うと太陽のような笑みをさらに深めた。



(なあに、気にするこたないさ!なんたってアンタはこのわたしの"お気に入り"だからね!)



_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ