月とアイス
□先生
5ページ/6ページ
「だから、いつから好きなのかはよくわからないの。気付いてたら好きになってた…」
「へぇ」
的場君は興味なさそうに返事をした。
「興味ないなら聞かなきゃよかったのに」
「いや、別に興味ない訳じゃないけど」
的場君、ホントに誰にも言わないでくれるのかな…。不安だな。
「…でも、アンタ等って両想いになれても付き合えないよな」
「え?」
「だって、黒田も一応先生だろ?生徒と付き合うとかやばいんじゃねぇの?」
私は、その言葉に何も返せなくなってしまった。
◇◆◇◆
「つか、俺帰るわ。じゃあな」
「あ、うん、バイバイ」
俺は、廊下に出てドアを閉めた後にもう一度保健室を振り返った。
「アイツ、あれで明るくしたつもりかよ」
声が震えてた。
明るく笑ったつもりだろうが、笑えてなかった。
「黒田もアホだな。俺だったらあんなへましねぇな」
まぁ、本気で女を好きになったことなんかないからわかんねぇけど。
◇◆◇◆
的場君が出て行った保健室は静かだった。
「…別に、付き合いたいとかそういうのじゃないよ。ただ、ただ傍に居たいだけ」
呟いた言葉が悲しくて、鼻の奥がツンとした。
「浮かれちゃって、馬鹿だな。キスくらいで浮かれちゃって…」
自分の唇にそっと触れた。
感触が残ってるの。
先生がキスをしてくれた感触が残ってるの。
何で?
なんで、先生は私にキスなんかしたの?
一瞬でも思ってしまった。
先生は私が好きなんだって。
両想いかもしれないって。
先生に聞きたい。
だけど、先生に聞きなくない。
先生の傍に居られなくなりそうで。
「先生が来る前に帰っちゃおう」
私は、暗い気持ちを打ち消すように明るく言った。
帰らなくちゃ…。
だって今は、ダメ。
今、先生に会ってしまったら今日のことを忘れられなくなってしまう。
先生のことが好き。
好きだから今日のことは忘れてしまおう。
明日ここへ来ても、昨日までと同じでいれるように。
「先生…私、傍にいれるたけでいいから。傍にいれるだけでいいから…」
両想いになっちゃダメなんだ。
先生の傍に居られなくなっちゃうから。
「私は先生の傍にいれるだけでいい」
私は、自分に言い聞かせるように呟いて保健室から出た。
_