本
□風邪
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「38.7度…、風邪だな。」
『うっ、ゲホッゲホ…。やっぱりですか。昨日から頭がクラクラして体が火照ってて吐き気がして熱っぽいなぁ、とは思ってたんですけど。まさか…』
「まさかじゃねぇよ。ここまで症状が出てんだ、気付け。」
会話の通り。なまえは風邪を引いています。しかも結構重症な。
『あぁ…、りんごが見える。私もう死ぬかも』
「りんごが見えるのは幻覚じゃない。おれが今食わせてやろうと持ってきたんだからな。さっさと食え。」
『病人に対する態度じゃないっすよ…。うぁぁ、頭が重い、知恵熱かな?』
「重く感じるほど知識を詰め込んでるのかどうか。お前が重く感じるんだったらおれはもう植物状態並みだな。」
ああ言えばこう言う、とはまさにこのことだ。とお互いがお互いに思ったらしい。
なまえは自称重い頭を渋々持ち上げてローが切ってくれたリンゴを口にした。瑞々しくて病人の体にはもってこいの食べ物だ。
『ローさんはさぁ、風邪とか引かないの?明らかに私より不健康そうに見えるけど、寝込んでるとこ見たことないし…』
「風邪なんて、生まれてこのかた引いたこともないな。おれは生まれ持ってどんな疫病にも対抗できる免疫力が備わってるんだ。死の外科医を甘く見るな?」
『甘く見たことも苦く見たこともないですよ。今はちょっとローさんのこと痛いと思ってます…』
どんだけ自意識過剰なんだと付け加えたかったが、自分の身に危険が迫ることを感知してやめておいた。