終わり亡き謡

□刑部姫と幼き雲雀の出会い頭
3ページ/4ページ

ナチュラルに、そんな話を沢田宅で獄寺達と年越しをしようとわいわいやっていた矢先、堂々と拉致られた挙げ句、雲雀の屋敷に連れられて。雲雀の母親と会い、雲雀の隣で聞いていた綱吉は唖然とするしかなかった。
「すっかり忘れてたわぁ」と頬に手を当て首傾ぐ雲雀の母親はちょっぴり困ったような顔を見せていたが、直ぐに笑顔を取り戻すと人差し指を立ててニッコリ笑んだ。

「だから、今から兵庫県行ってきなさい」

そんな無茶苦茶な話がありますか?!
あんぐりと口が開いた綱吉の横で、雲雀は呆れたように溜め息を溢しながら母を呼んだ。

「いつもだけど唐突過ぎるよ。僕だって学校の業務が」
「年末ぐらい休みなさい。そして、行ってきなさい」
「あの…オレは帰っても良いのでは…? オレ、友達と…――でぇっ!!」

その疑問の次にお断りを入れようとしたら遮られて、綱吉は椅子から転げ落ちた。
綱吉自身は何故その話を聞かされたのか大いに謎だ。それなら雲雀にだけ言えば良い。
雲雀の母親は頬に手を当てて、眉尻を下げながら再び首を傾いだ。

「ごめんなさいね。でも、連れていく連れは私に見せたいって言うから…」
「違うよ。母さんが連れてこいって言ったんだよ」
「あら。そうだったかしら?」

にこりと笑って、雲雀の母親は逆方向に首を傾いだ。その笑顔がとても楽しそうに見えるのは気のせいか。そんなわけないな。気のせいじゃない。
ていうか、何故。綱吉が連れに抜擢されたのかという謎に今度は行き着いた。
が、頭があまりにも痛くて呻くしかできない。

「まぁ、何にしても行ってきなさい。お姫様が待ってるわ。それでだけど、お菓子いっぱい買って行ってね?」
「何でお菓子…」

きゃっと笑った雲雀の母親が、今度は両頬を押さえる。

「お母さんがお姫様と勝手に約束したからよ。そもそも、恭がお姫様に悪いことするのがいけないのよ?」
「僕は覚えてない」
「私が覚えてるの」

悪びれもなく雲雀の母親は続けて。

「甘いものでお願いね?」

すっと出されたのは、航空チケット二枚。

行ってらっしゃぁい、と。呑気な声援を手を振りながら送られた。
隣の雲雀は、溜め息を吐きながら肩を落とした。


○○○


あれ?
おかしくない?
航空チケット二枚貰ったのに、大きな飛行機に乗るんじゃないの?大勢の人が乗る旅客機に乗るんじゃないの?ANAとか、JALとかさ!
目の前にある小型の飛行機。
偉い人が乗るんじゃないの!?

「何ボサッとしてるの。乗りなよ」
「ぐえっ!」

首根っこ捕まれて小型旅客機に乗せられる。
椅子にほっぽり投げられると、颯爽と雲雀は綱吉の前にある座席についた。

「シートベルト」
「ちょっと待ってください!チケットどうするんですか!?」
「いらないよ」
「じゃあ何で取ってもらったの?!」
「母さんが勝手にファーストクラスの席を貸し切りで取ったからだよ。僕はこっちが好きなのに」

雲雀さん!好きとかの問題じゃないですよ!?
しかも、ファーストクラス貸し切ってって雲雀さん家どれだけ金持ちなん…──。

「出して草壁」
「ここでも草壁さん登場ですか!」

さっさとシートベルトを締めるように言われた綱吉は、もうどうにでもなれと諦めながらベルトに手をかけた。

では出します、と綱吉の耳に届いた声は草壁で。視界の片隅に見えた黒いフランスパンが間違いないと脳内に訴えた。

けたたましいエンジン音を聞きながら、再び疑問に思う。
何で自分なんかが連れとして抜擢されているのだろうか。


∞∞∞


兵庫県。
姫路城近くのお土産屋に辿り着くと、雲雀は店内に並んでいる賞品を手に取る。

「ねぇ。お姫様にプレゼントするお菓子、どれが良いか知ってる?」
「知らないですよ!お姫様になんかプレゼントしたことないですから!」
「役に立たないね。連れてきた意味がないじゃない」

何でそこまで言われなくちゃならないのー!?
仕方ないと言った雲雀は定員を呼びつける。店員、と言うよりは店主らしきご年配の男性が笑顔で何でしょうか、と言えば、雲雀は菓子コーナーの隅にある商品を1つ指差した。

「こちらですか?こちらなら…──」

それから、隅を差していた指はつーっと動く。置かれている商品をなめるように動いた人差し指は、反対側の菓子コーナーの隅で止まると。

「この菓子コーナーにある菓子全種、1つずつちょうだい」

何だってー?!

流石に店主も驚いて、入れ歯が口から外れて落ちた。いや、入れ歯が外れるって何事だ!

「入れ歯落としてるよ。それじゃあ、会計済んだら言って。外の団子屋で待ってるから」

ふぁあ、と欠伸をしながら雲雀が店内を出ていった。追うべきか悩んだが、雲雀が買うと言った菓子をお祖父さん1人に任せるなど綱吉の良心が許さない。先ずは店主に入れ歯を洗ってくるように言って、自分は菓子コーナーの菓子を運ぶことにする。
1人、小型旅客機に残った草壁にもついてきて欲しかったと、つくづく綱吉は思いながら溜め息を吐いた。
運びから会計、袋に詰めるまでには30分。到底雲雀と綱吉2人では運べるはずもなく、雲雀は傍若無人にもこう申し出た。

「面倒だから台車貸して。レンタル料も払う」

やっぱり、草壁にもついてきて欲しかったと心底思う綱吉だった。


∞∞∞


 がらごろと台車を押しながら、雲雀について歩いていると、雲雀は古ぼけた酒屋の前で立ち止まった。
 木造で、いかにも年季が入っている。

「雲雀さん。お酒飲むんですか?」
「飲めるよ」
「へぇ…」

あんな味もなくてぐわーっとくる奴、飲めるんだ…。父さんに魔法の水だって飲まされた時は次の日頭痛くて辛かったなぁ。

「でも、何でお酒なんか…──」

 じっと空を見上げた雲雀さんは、夕焼け色に染まっている空へ白い吐息を吐き出した。


「星見酒でも、しようかと思ってね」


 行ってくるよ、と言った雲雀は一人酒屋へ入っていった。
 大荷物と置き去りにされた綱吉は、はぁ、と溜息を吐きながら、腰をおろした。
 雲雀がそこから出てくるのは、また数時間後。


 100万もする、高級の日本酒を買って…――。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ