不器用な相思相愛
□かの者の心は何処に…? そこに居るのは誰…?
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(Upload−2011/01/16-SUN-pm06:45)
(LastUp−2011/02/05-SAT-pm21:15)
あの時、彼の声を聴いた時、人を惹きつけるその声は久遠千里なんだと一瞬でわかった。
初めて久遠千里と会った時、その時まだ、俺は"無"だった。あれは、俺が中1で、3学期の事だった。
「蜜瑠、大分成長したな。」
「…楓のお蔭だよ。」
「そんなことはないさ。お前が頑張ったからだ。」
「楓……。ありがとう。」
「どうしたしまして。……さて、…蜜瑠。そろそろ、オーディションに出てみないか。」
「!」
「もう、お前なら行ける。」
遂に来たんだ、この時が。そう思うと俺は本当にうれしかった。勿論、答えは……
「俺、オーディションに出る。」
その後、俺は汰玖巳として、芸能界に激震を与えた。…華々しくスタートを切ったんだ。
季節は変わり、俺は中2になった。クラスも変わり、少しドキドキしていた。
「蜜瑠!」
俺に向かって、手を振っているのは、俺の親友の瑠夏。彼に出逢ったのは中学校に入ってからで、楓に次いで、俺の事を親身になって応援してくれた人物だ。
その隣には、瑠夏の腕に自らの腕を回す、1人の女がいた。
「瑠夏、このクラスなのか?」
そう思うと、俺は嬉しかった。
「……あぁ。」
その声は少し沈んでいた。
「お前と同じクラスかぁ……。よかった。」
「そう……だな。」
やっぱり瑠夏の声は沈んでいる。
「どうかしたのか?」
俺のその問いかけに、一瞬の沈黙。その時、女が瑠夏の腕を引っ張った。
「どうしたの〜? 瑠夏〜?」
「! ……璃美。いや何でもない。……蜜瑠、俺もお前と同じクラスでよかった。」
――チャイムが鳴る。
「じゃあ、蜜瑠。また後でな。」
「ああ。」
「蜜瑠君、またね!」
2人が手を振ったので、俺も軽く手を振っておいた。
その後は、3人でよく遊んだりと、仲良く楽しい日々を送っていた。
俺が俳優と言う事だけあって、声を掛けてきたり、興味本位の質問をしてくる人も多かったが、俺が学校に居ない事も多く、周りとは少し距離感を感じていた。
そんな中2人は、俺に分け隔て無く接してくれた。俺はそんな2人に感謝していた。
2人に支えられて"いた"から。
その生活が崩れていくまで、あと3か月――。
声優の道を選ぶまで、あと2年弱――。