不器用な相思相愛
□お互いの命が逢いまみえる時
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久遠千里と最初に会ったのは、昨年の初冬……。俺は、その時はまだ俳優だった。
ただ、俳優としての自分を失っていた。
そんな時に、マネージャーであり、父親役である神宮寺楓が連れて来てくれたのが、声優が収録をしている現場だった。
その時、初めて久遠千里の声を聴いた。
俺は、ゾクッとした。感情移入は一瞬で出来、その色のある声に魅入られた。
声だけで、ここまで情景が浮かんでくるなんて、思ってもいなかった。
「どうだ? 凄いだろう?」
「うん…凄く。」
一瞬で俺は、この仕事への虜となった。
「……俺、声優で再スタートする。」
「そうか、じゃあマネージャーとしての俺とはお別れだな。」
楓は、まるでその答えを待っていたかのように、その言葉を一瞬で紡ぎ出した。
「そうだな。……マネージャーとしてはね(笑)。」
上手く笑えたかな……?
少し自信がなかったが、俺はそのまま続けた。
「……でも、本当にありがとう。俺、楓に凄く支えられてた。」
「俺も、汰玖巳のマネージャーが出来てよかったよ。お前の演技は間違いなく俳優界でトップの物だった。そんなお前のマネージャーが出来たんだ。こんな光栄なことはないさ。……もう二度とお前ほどの奴は現われないだろうな。」
「………。」
そんな事無い、と笑ってやりたかった。でも、それは出来なかった。
涙しか出てこなかったんだ。
涙が止まるまで、楓は俺の頭を撫ででいてくれた。