深い夢
□1《はじまり、はじまり》の段
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――――――‥‥
「おい!!」
「…!?」
どれくらいの時が経ったのかわからない。
閉じていたまぶたは大きな声によって反射的に開かせられた。
「おぉ!無事じゃったか」
声の主だと思われる老人が、私の頬を軽く叩いた。視界に、新たな色彩が映る。
浮かんでいる感覚が消えた私の体を支えている老人の服は、赤。
上着のような服はオレンジ。
だらしなく垂れた私の腕には、白い砂がついている。
「ひらひらした変わった着物じゃのう…、お前さん名前は?」
……なぜだろう、老人はなにかを話しているのにさっぱり内容がわからない。
また呼吸になってしまうかもしれないが、精一杯の力をお腹に込め、話しかけてみた。
自分で驚くほど小さな声だったけれど、ちゃんと聞こえたようだ。
けれど…
「ふ?あーゆ…??」
私同様、言葉が通じていないらしい。
「むぅ…その着物、その髪、そして…その目…南蛮の者か?日本語、にほん、ご!わかるか?」
「…ッゲホッ!っゴホッ!!!」
なにか話さなくてはと思ったのに、むせてしまい嗚咽に似た咳ばかりでてきてしまう。
「す、すまん、それどころではないんじゃった」
細く見えた体で軽々と私を背負い、海辺の砂浜を歩きだした。
たぶん悪い人では、ない。
助けてくれようとする意志は伝わり、抵抗せずに背中に寄りそった。
「ワシの名前は野牛金鉄。元気になったら、また自己紹介が必要じゃのー」
老人がなにを言ったのか、やはりわからなかったけれど
じんわりと伝わってきた温もりを、とても愛おしく感じた。
―続―