献上品
□2人の変奏曲―食満side―
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可憐な桜の花。
どこかあの人に似ていて好きだった。
「卒業なんて制度、無くなればいいのに」
今は見る度悲しくなる。咲かなければいいのにと、恨めしく思った日もあった。
それでも春はやってきて、毎年のように桜は見事に開花する。
俺の願いをあざ笑うようで、直視できないなんて伊作に話せば「桜になんの罪があるのさ」と笑われてしまった。
ごもっとも。
無茶を言ってるのは俺の方。
でも、八つ当たりしちまうほど嫌なんだ。認めたくなかった。
大好きな人の、卒業なんて。
嫌々腹くくって、せめてあの人の記憶に俺が残る方法を考えた。
ダメもとで慣れない勉強をしたれど…所詮付け焼き刃。
テストの平均点が少し上がった程度で、在校生送辞代表には選ばれなかった。
仙蔵が選ばれたと聞いた時は、悔しい反面納得しちまった自分が情けない。
「こんな事なら、もっと勉強しとけばよかった」
「おい伊作、今幻聴が聞こえたぞ」
「奇遇だね文次郎、私も聞こえた」
文次郎に掴みかかる気力が湧いてこない。悪態すらする気になれず、深いため息ばかり口から漏れた。