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□鈍る私の常識
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まぶしい。

このまぶしさは、人工的な光じゃなくて…大自然に降り注ぐあの太陽の光。だって暖かくていい匂いがするから。きっと窓から朝日が差し込んでいるんだ。

気持ちいい。でも…………少し暑いかもしれない。それに何だか寝苦しい。



『……うーん』

「あれ…苦しい?これでどう?」

『あ…うん、大丈夫、かな…』

「そう、じゃおやすみ…」

『うん…おやす………って、ちょっと!!』



前、というか…つい昨日の出来事とおんなじパターンじゃないですか!!
眠気はどこかへさよなら、起き上がろうと腕に力を入れるも、彼によって背後から腕を回されしっかり身動きは取れない体勢。



『トランクスくん、あのこれはいったい』

「なに…今日は土曜だよ…もうちょっと寝てようよ」

『そういうんじゃなくて…』

「じゃぁ何…あ、朝ごはん?まったく名無しは食いしん坊だな…」

『ちーがーうーってば!!』



なかなか話を核心まで持っていけないことに苛立ちつつ、今回は後ろからおなかに彼の両腕が巻き付いているため動ける範囲のみでの抵抗を試みる。



『なんで、またここにいるのかなって』

「なんでって…なーんか最近、やわっこい抱き枕がないと眠れなくてさ…」

『し、知らないから!!…は、離してよ〜っ』

「あーもう、暴れないで名無し」



これが暴れずにいられるでしょうか。昨晩彼は退室したあとまたここへ来て、勝手に布団に潜り込んだのだろう。その硬く絡まった腕をほどくことも不可能、抜け出すことも不可能、体をねじることもかなわない。まさに拘束、朝っぱらからこんなことがあってたまるか!!



『うーんっ』

「名無し」

『なに』

「あんま暴れると、襲うよ」

『……す、すみませんでした』

「うん、いい子」



そして脅迫。
私に人権てないのだろうか…襲うは冗談にしても、これ以上反抗的な態度を取り続ければ何をされるかわからない。とりあえず大人しく彼の腕の中に収まっておいた。

そうなるともう気になるのは彼の手つき。こっちのおなかを擦ってくるんだけど…ちょっと冷や汗ものだ。



『ねえ』

「何、やっぱり襲ってほしい?」

『ちっがう。その、あっあんまり、おなか…そうやって触んないで』

「え?あぁ、もしかして…おなかのお肉とか気にしてる感じ?」

『…女の子によくそんなこと言えるね…』



図星なんだけど。トランクスくんみたいにガチガチな薄いおなかの人に触られたら、どう思われるか分かんないじゃない…あと単にくすぐったいのもあるよ。

一瞬うーんと唸り、どうやら悩んでくれたらしいトランクスくんは何か閃いたように話し始めた。



「じゃぁさ」

『はい』

「この名無しのおなかに添えている俺の手。上と下、どっちにずらせばいい?」

『えと……』



やった、退かしてくれるみたい…と思ったけど、何か違和感。上か下…………って、いやいやいやいや!!



『どっ、どっちもだめ』

「俺的には今日は上にずらしたい気分なんだけど、どうだろう」

『どうだろう、じゃないぃいっ!!だめなもんはだめっ!!』



する、とその大きな両手が上に少し滑り、これはいよいよまずいと必死にその手をベチベチ叩いた。

すると、冗談だよと言って手を下げてくれたトランクスくん………からかわれた。また。



『はあ…』

「触ってほしかった?」

『…トランクスくんのバカ』

「?…怒ってる?」

『怒ってないもん』

「ねぇ、許してよ名無し」

『怒ってないってば』

「名無しが大好きだからちょっかい出したくなるんだよ」

『知らない』



朝からあんな目覚め方、引き続くセクハラに言葉攻め、挙げ句あんなからかわれて…そりゃ本当は怒ってるに決まってるよ。でも彼は悪気があるわけじゃないから、怒りをぶつけるなんてしたくないし。だからしばらくそっとしといてほしい。

…そんな細やかな願いだって、神様は聞き入れてくれなかったようだ。



『………!!?』



首に突然襲ってきた感触。昨日耳にやられたみたいに、優しく舐められたり、たくさんキスをされたり…後ろからこんな悪戯してくる彼のタチの悪さに、もう脱帽する。



『や、だ…』

「ちゅ」

『っん』



私は怒ってるのに。
怒りよりも、それに勝るよく分からないゾワゾワのせいで涙が滲む。
両手を口に持っていき、また声が出ないよう我慢していると、トランクスくんは身を離して残念そうに口を尖らせた。



「もう、そうやって堪え忍ぶことないのに。名無しの可愛い声が聞きたいんだから」

『はぁぁあ…と、トランクスくん…』

「なに?」

『トランクスくん、昔は可愛くてカッコよくて、頼りになる憧れの男の子だったのにっ』

「今はちがうの?」

『うん、すごい意地悪!悪質!!』

「プラス、変態」

『ほんとだよっ!』



気がつくと体は解放されていて、睨み付けてやろうとがばっと起き上がり、今日初めて彼の顔を見た。相変わらず憎たらしい余裕の笑みと視線はぶつかり、思わずプイと顔をそらす。



「どーしたの名無し」

『わ……私、一応怒ってるんだよ!!からかったことも、今のことも…』

「さっき怒ってないって言ってたのに」

『………あ、あれは』

「ごめんてば。謝るよ」

『……………』

「…名無し」



服の裾を引かれ、ゆっくり彼の方を向き直った。途端、今までの不快な思いや妙な冷や汗はやわやわと解除されていく。



「ごめんね、大好きだよ」



そう囁く彼の声と表情は、嘘偽りを含まない真っ直ぐな笑顔で、若干眉が下がっているのを見ると少しは反省してるのかなと思う。
甘いな私、なんてため息を吐くと、トランクスくんも起き上がりズイッと顔を近付けてきた。



「ね、許して」

『………うん、もういいや、許す』

「…大好き」

『それさっきも聞いた』

「返事は」

『返事はって…?……どうもありがと』

「……………………」



そして今度はトランクスくんがかなり物言いたげな顔でため息を吐く。何か気に食わないことでも言ったのだろうか、と不安になり彼の様子を伺うと、しばらくしてパッと顔を上げた彼。



「何でもないよ」

『ほんと?』

「ちょっと疲れちゃっただけ」

『…私だって、朝からヘトヘトだよ。拘束されてたせいで何か体ダルいし痛いし…疲れちゃって立てないし』

「………名無し、やらしい」

『何が!?』

「知りたい?じゃあ」

『…ちょっと、近いですトランクスくん!!』



また始まったこの負け戦。ぎゃあぎゃあと騒ぐ私たちの声が届いていたようで、間も無く軽い足音が聞こえ、部屋のドアが開け放たれた。



「おはよう、朝からどーしたの名無しちゃん…あら、トランクス」

「母さんおはよ」

『あ、おはようございますブルマさん!!…す、すみません、うるさくしちゃって…』

「んーん、大丈夫よ〜、物取りにこっち戻ってきただけだし。」



ひらひらと片手を振ってにこやかな笑顔を浮かべるブルマさん。ああ良かった…お仕事に差し障るようなことにはなっていないみたい。でも以後注意しなくては…。
そしてブルマさんの笑顔がキョトンとした表情になったことに気付き、何だろうと言葉を待つ。
数歩こちらに歩みより、腰に手を当て私たち二人を眺めて彼女は静かに口を開いた。



「んで…昨夜は一緒寝たの?」

『え?…あ、はい。そうです』

「うん、そうだよ」

「………はーアンタたち、いつのまにそんな仲になったわけぇ?一昨日来たばっかで、もう添い寝なんかしちゃって…若いわね〜」

『…………え!?』



ニヤーっと綺麗な口元を引き上げ、ブルマさんは意味深に笑う。明らかに不純なものを含んだその言葉に、一度冷静になってみた。

…絶対、いかがわしい意味の「添い寝」を疑っている!!
違うんですブルマさん…ほんとに寝ていただけなんです…!!

弁解しようにも、それより先にトランクスくんの軽口の方が早く飛び出していた。



「違うよ母さん、名無しが来たその日の晩も一緒に夜を明かしたよ」

「あらぁ」

『ちっ、ちが…違うんですよブルマさん……あ、違うわけじゃないけど、あのホントに一緒に寝ただけで…』

「そ、…ねたんだ、俺たち」

『何か違う含みあるよねそれ!!』



何を言っても事態をこじらせてしまいそうで、必死に言葉を探すがなかなか難しい。

………そうだ、よくよく考えたら一緒に寝ていたなんて秘めるべき事態。実際そんなコトがなかったにしても、平然と肯定すべきものじゃない!!私だって最初はかなり抵抗あったもん…。

どうやら私はすっかりトランクスくんのペースにはまったようだ。

















鈍る私の常識






「じゃ、引き続き楽しんじゃってね〜邪魔者は退散退散っと。じゃねー」

『待っ…違うんですブルマさん!!行かないでくださいーっ』

「名無し、照れない照れない」

『……………』



続.


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