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□おやすみなさい
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『や、やめてってばートランクスくんっ』
「やめない」
『ちょ、っとケータイ、貸してください』
「だめ」
「帰ってくるなり……元気ねぇアンタたち」
『だってトラン……あ、ブルマさん!これおみやげのケーキです』
「あら、ありがと〜」
届くはずもない彼のケータイ目掛けて必死に手を伸ばしているところへ、仕事終わりのブルマさんがリビングに入ってきた。すかさずお土産のケーキを押し付け、再び彼のケータイを引ったくろうと何度も背伸びする。
『待ち受けなんて、やだっ』
「なんで。何を待ち受けにするかなんて俺の自由だろ。いいじゃん、可愛いんだから」
『嫌、だってばーっ』
そんなやり取りをドタバタ繰り返し、諦めがついて自室に帰ったのはそれから30分後のこと。はい、もちろん一度だって携帯には触れませんでした。
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見事惨敗に散り、しかたなく気持ちを切り替えて机についた。勉強道具を広げ、その上にそのまま突っ伏すとドッと疲れが襲ってくる。
『はあぁあ』
「勉強?」
『うん、そう……って』
「なに?」
『いつのまに入ったの?』
「集中してると何も見えなくなるの、変わってないよね名無し」
ベッドに腰かけて茶化してくるトランクスくん。慌てて彼に背中を向けて、ノートに視線を落とす。……本当に面白そうに笑うトランクスくんのその言葉に、またもやドキッとしてしまった。バカにされてるはずなんだけど。彼が私のことをよく分かってくれているのが、物凄く恥ずかしいのに何だか嬉しい。
視線を反らしたままノートから目を離せないでいると、トランクスくんは、あっと声を上げて私の耳の飾りに手を伸ばしてきた。
「まだ着けてくれてるんだ」
『え?……あぁ、うん』
「嬉しいな」
『そう?私もね、やっぱり自分で買うよりも誰かにプレゼントされた方が嬉しい、身に着けたくなるよ』
……それにトランクスくんがくれたものって、何でか分からないけど特別に感じてしまう。あの時、予想していなかった突然のプレゼント。あんなに嬉しかったことって、今までなかったもの。
『トランクスくん……本当にありがと』
「………うん」
気付けばポロリと感謝の言葉が口から漏れていて、ハッとなり彼の方を向くと、満足げな笑顔がそこにあった。からかうようなどこか幼い笑顔じゃなくて、見ていて安心する優しい笑顔。
(……ど、どうしよ)
うっかりその顔に見惚れてしまい、心拍数がグンとあがった。目を反らしても治らない、顔はきっとすごく赤いと思う。……トランクスくんが私に笑顔をくれるのが嬉しくてたまらない。
……うれしいんだけど、そんなにずっと見つめられていては、平気なふりなんて出来なくなる。
『えーと、ど、どう……したの?』
「名無しは可愛いなぁ」
『はっ!?……い、いきなり何』
「………いきなり?いや、いつもそう思ってるけど」
『ほ、ほんと、どうしたのトランクスくん、何か変』
声が低い。からかってくるときとは少し違うような。視線もぶれることなく真っ直ぐだ。何て言ったらいいかわからないけど、とにかくトランクスくんは何か変。
「変だよ。いっつも」
『なに……?』
「名無しのこと、考えてると俺変になる」
なんて…色気のある微笑み。男の人だって射止めてしまえるんじゃないのか。そんな表情で距離を縮められ両手を取られると、もう抵抗なんか忘れてしまう。完全に動けなくなって、ただただその綺麗で妖しい彼の視線に釘付けになっていた。
我にかえったのは、彼の顔がスッと視界から消えたとき。気付いたら、トランクスくんは私の首もとに顔を埋めていた。
『な、なななにっ!?』
「やっぱり、可愛い」
『………いっ!?』
触れられたのは、耳。耳たぶをパクリと啄まれ、思いきり肩が震えてしまった。何でこんなことを、とグルグル混乱する私を無視して、トランクスくんはまた少し動く。次に襲ってきたのは、ぬるりと温かい感触。ピアスの刺さるそこに舌を這わせているのだと気付いた。
『やだ、ぁっ、……とら、んっ』
執拗に、でも優しくそんな所を舐められては、頭なんて正常に働くわけないじゃないか。
何だ、何が起こってるの!?
直ぐさま口を硬く結び、おかしな声が出ないようギュッと堪える。両目もガッチリ閉じて身をちぢこませ、彼の不可解な行動が終わるのをひたすら待った。
しばらくして気が済んだのかトランクスくんは身を離して私の両手も解放した。おそるおそる目を開けると、ぺろりと舌を覗かせ悪戯に微笑む彼が息を吐く。
「ふー……もうこれ以上やったらだめ、かも」
『……もう……何だったの…………今の』
「……あれ、それ睨んでる?はは、全然怖くないし色っぽいけど?」
『だっ……だからぁ』
「あんな可愛く反応されて、我慢できたんだから褒めてほしいもんだよ……はあ。まぁとりあえず今日は帰るよ。勉強がんばってね」
『え、ちょっ』
こちら抗議を一切聞くことなく、颯爽と部屋を出ていこうと立ち上がる彼。腑に落ちない私は片手を伸ばしてそれを止めようとするも、逆にその手を取られ抱き寄せられてしまった。
『きゃ』
「おやすみ名無し」
額と頬と耳に素早くキスが落とされ、またもや硬直して動けなくなった私を余所に、涼しい笑顔でトランクスくんは出ていった。
(…………………)
もう意味が分からない。
あの人はどんだけスキンシップ取るのが好きなんだろう。そりゃ優しいし頼りになるし、素敵な人だとは思うけど……ああもう本っ当に掴めない、おかげでもう勉強なんか今日は手付かなそうだ。
キスされたとこは熱いし、何だか息も切れてるし。言いたいこと、というか文句はいろいろあるけど。
(まあとりあえず……)
おやすみなさい
(あれ………今日は一緒に寝ないのかな)
続.