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□冷たい距離
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今日は待ちに待った初登校の日だ。キリよく冬休み明けから編入ということで、肌寒い道をトランクスくんと並んで歩く。浮かれすぎで、何度転びかけたことか。

この編入に関しては、本当に色々なことがあったけど、みんなの協力もあって無事に生徒として門をくぐることができる。



「編入の手続きとかで何度か来てるはずなんだけどね?」

『それはそうだけど!平日の朝から堂々と登校できるって感激だなあ』



学校の真ん前まで来ると、そこは私の体験してきた学校生活とは大きなギャップがあり、いい意味で面食らった。学校の大きさも、人の多さも、自由な雰囲気も、賑やかさも、どれも私をわくわくさせる要素ばかりで……あと、それから。

(………………あれー?)

もうひとつの驚きは、この事態。トランクスくんと一緒に校門を潜ったとき、一瞬空気が静まったのだ。

(……なに?)

あたりを見渡すと、みんなこちらを凝視している。

こんな大規模の学校では、ぱっと見で私が編入生だということはなかなか分からないと思うんだけど……つまり私自体が物珍しいってわけじゃないはず。

(………も、もしかして)

これ、前にふたりでショッピングに行ったときのあれに似てる。入店した瞬間、トランクスくんに向けられる女の子たちの熱い視線と……私への、よくない攻撃的な眼差し。

予想は的中したらしく、ざわつき始めた女の子たちは、゙トランクスくんの隣のあいつは誰だ゙的なお話をしてる。



「何してんの、早く行こう、名無し」

『う…うん…』



相変わらず本人はけろりとしているんだけどね。凛とした態度のトランクスくんとは裏腹に、私はさっきより少し控えめに彼の後を追った。







***************








放課後までで、いったい何人の人に話しかけられたかわからない。ほとんどが女の子だったんだけど、たまに興味津々な男の子も寄ってきた。

みんなの口振りから、よほど、トランクスくんが女の子といるのが珍しいらしい。

本来、みんなが一目置く孤高の優等生だったトランクスくんは、悟天くんの入学後、彼相手には大笑いしたり馬鹿やったりと、しばらく他の生徒はおろか先生たちまで驚かせ続けたらしい。

それ以来、トランクスくんは悟天くんは例外とし誰ともつるまないのがみんなの認識。そのせいで私が一緒に歩いていると回りがざわざわするらしいのだ。

……これじゃ、トランクスくんは居心地悪いんだろうな……私一緒にいてもいいのかな。

ちらり…と横で帰り支度をする彼に視線をやると、特に機嫌は悪そうでもない。……ホッとした。



「じゃあ帰ろうか。初登校、お疲れさま」

『う、うんっ。ありがとう。これからもよろしくね、トランクスくん』

「もちろん」



相変わらずざわついている群衆を通り抜け、ふたり玄関に向かいながら、そんな会話を交わす。トランクスくんはいつも通りなんだけど……やっぱり回りが気になっちゃうな。



「楽しかったか?名無し」

『あの、トランクスくん』

「何?」

『……私、学校ではあんまり、あなたと一緒にいない方がいい……?』

「……はあ!?突然、何言うんだよ。出来る限り俺から離れちゃ駄目だからな」

『そ、そっか。うん。よかった……もし、都合悪くなったら言ってね』

「……何だよ、都合悪く、って…そんなのあるわけないだろ」

『うん……ありがとう』



トランクスくんはああ言ってくれるけど……よくよく考えたら、トランクスくんにはトランクスくんの学校生活があるんだし、いつまでも頼りっぱなしって訳にはいかない。

さすがにすぐにっていうのは無理だけど、なるべく早く学校に馴れてトランクスくん離れしなければ。

それに、今はまだ編入生をサポートする優等生で話が通るけど……いつまでも一緒にいたら、有らぬ噂が立ちかねない。それはトランクスくんにとってマイナスのことでしかないだろう。



「トランクスくんっ」

「その子、もしかして編入生?」

「……そうだよ」

「先生に面倒見るように押し付けられちゃったの?」

「……俺が好きでやってる」

「あらそうなの?優しいわねトランクスくんって!」



あ、また女の子に話しかけられてる。
予想はしていたこととはいえ、実際に目の当たりにするとやっぱりびっくりしてしまう。廊下に出ればすぐ女の子たちが集ってきて……本当にモッテモテなんだなあ……。

それに、家でのトランクスくんとは何だか……雰囲気が違ってる。すごく静かで素っ気なくて冷たい。女の子たちにとっては、それが堪らなくカッコいいらしいけど(さっきトイレで女の子たちが話してた)。家での彼を見る限り、カッコいいけど変人、みたいな扱いをされてるのかと。

校門を出たあとも、何となく、いつもより、離れて歩いてしまう。同じ学校に通えて嬉しいはずなのに、彼が急に遠い存在になってしまったようで、少し悲しい。
こんなの気のせいだって思いたい。














冷たい距離



トランクスくんと私の間を、ひゅうと小さな風が通り抜けていった。

何だか、特別寒く感じるな。



続.


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